きみのこと、極甘にいじめたい。
◇
バイトは目がまわるような忙しさだった。やっと帰れるー。っとスタッフルームでのびをしたとき。
「なんかお前、今日やけに動きまわってなかった?」
人をお前呼ばわりする、低い声が聞こえる。
顔を見なくてもわかる。
バイトの先輩でひとつ年上、黒髪マッシュでクールなイケメンと女性客から大人気の吉田 四季(よしだ しき)だ。
特別仲がいいわけでもないけど、四季くんも私と同じくらいシフトを詰め込まれている人材で、そういう理由で会話は他の人よりは必然的に多くなっている。
……っていうか、なんかよく絡まれる気がする。
「私、今日は過去一動きまわりましたね。今日ほどバイトに集中したい日はなかったです」
「へー」
丁寧に返したのに、関心なさそうに相槌を打たれた。
ネクタイを緩めてほどく四季くんを見上げて、興味なさそーですねぇーって言おうかと思ったら。
「なんかあったの?」
切れ長で表情の少ない目がこっちを向く。
ありました、嫌なことがあったんです。
理太が、知らない女子にキスしたんです。
で、あのあと、
わかなに”素直ありがとう!”を連呼されて、
「理太と私、キスはしてないよ」と女子たちを煽る余裕さえあったことまで白状してもらい、
そんな会話をぼんやりと聞くくらい、あたしの頭の中は、理太ばかりだった。
……ショックだ。
「…四季くん、あたし……あたし、疲れました……! 早急に、バイトをふやすように店長に土下座してください!!」
「なんで俺が。まぁこうも頻繁に募集かけてると、ブラックだと思われて警戒されるんだろうな。こんなとこ誰も来ねーよ」
「なに諦めてるんですか!?」
「俺はたくさんシフト入れて稼ぎたいからちょうどいい」
「……な。それはそうだけど……」
「それに、バイトのメンツも悪くないだろ」
「確かに……みんな優しいけど、でも……あ」
この店の雰囲気だってすごく働きやすいと思う……。
でも忙しすぎない?どうなの?自問自答を繰り返していると、四季くんが「おい」なんて言う。
「はい」
「お前と入ってるときは、俺も助けるようにするから」
「え?」
「まぁだから、俺にできることはするから」
言葉を探す四季くんは、手にもったネクタイをひらひらとゆらしたりして落ち着きがない。
「あー……だから、お前辞めんなよ?」
「やめませんよ!?」
「は?」
「辞めたくないですよ」
「辞めねーのかよ」
四季くんの持っていたネクタイが私の腹部にベシっと当てられた。
「痛ぁ、やめてほしいんですか!?」
「辞めるなって言ってんじゃん。つかお前が辞める前日みたいなテンションで過ごしてるからだろ」
「もしかして心配してくれたんですかぁー?」
にやにやしながら冗談混じりに言ったら、もっかいネクタイとんできた。
「うっざお前」
「そんなにあたしに居てほしいんですか」
四季くんのこといじってみたら、
「そんなの居てほしいに決まってんだろ」
「……」
そんなふうに返す四季くんはずるいとおもう。うわてだとも思う。
「そ、そりゃあたしが抜けたら、四季くんの仕事量、増えますもんね……!」
なんてしどろもどろ返すはめになったあたしを、四季くんが眺める。じっと。
「そういうんじゃないけどな」
着替えるから出てってなんて、追い出されてしまった。
四季くんって。なんか、独特。
笑わないし、口悪いし、表情なんか氷みたいに冷たいし、でも言ってることは結構優しかったりして。
理太と全然違う。
……でもなんか助かった。
今だけ、理太のキスシーンが頭に中に浮かんでこなくて済んだから……。
バイトは目がまわるような忙しさだった。やっと帰れるー。っとスタッフルームでのびをしたとき。
「なんかお前、今日やけに動きまわってなかった?」
人をお前呼ばわりする、低い声が聞こえる。
顔を見なくてもわかる。
バイトの先輩でひとつ年上、黒髪マッシュでクールなイケメンと女性客から大人気の吉田 四季(よしだ しき)だ。
特別仲がいいわけでもないけど、四季くんも私と同じくらいシフトを詰め込まれている人材で、そういう理由で会話は他の人よりは必然的に多くなっている。
……っていうか、なんかよく絡まれる気がする。
「私、今日は過去一動きまわりましたね。今日ほどバイトに集中したい日はなかったです」
「へー」
丁寧に返したのに、関心なさそうに相槌を打たれた。
ネクタイを緩めてほどく四季くんを見上げて、興味なさそーですねぇーって言おうかと思ったら。
「なんかあったの?」
切れ長で表情の少ない目がこっちを向く。
ありました、嫌なことがあったんです。
理太が、知らない女子にキスしたんです。
で、あのあと、
わかなに”素直ありがとう!”を連呼されて、
「理太と私、キスはしてないよ」と女子たちを煽る余裕さえあったことまで白状してもらい、
そんな会話をぼんやりと聞くくらい、あたしの頭の中は、理太ばかりだった。
……ショックだ。
「…四季くん、あたし……あたし、疲れました……! 早急に、バイトをふやすように店長に土下座してください!!」
「なんで俺が。まぁこうも頻繁に募集かけてると、ブラックだと思われて警戒されるんだろうな。こんなとこ誰も来ねーよ」
「なに諦めてるんですか!?」
「俺はたくさんシフト入れて稼ぎたいからちょうどいい」
「……な。それはそうだけど……」
「それに、バイトのメンツも悪くないだろ」
「確かに……みんな優しいけど、でも……あ」
この店の雰囲気だってすごく働きやすいと思う……。
でも忙しすぎない?どうなの?自問自答を繰り返していると、四季くんが「おい」なんて言う。
「はい」
「お前と入ってるときは、俺も助けるようにするから」
「え?」
「まぁだから、俺にできることはするから」
言葉を探す四季くんは、手にもったネクタイをひらひらとゆらしたりして落ち着きがない。
「あー……だから、お前辞めんなよ?」
「やめませんよ!?」
「は?」
「辞めたくないですよ」
「辞めねーのかよ」
四季くんの持っていたネクタイが私の腹部にベシっと当てられた。
「痛ぁ、やめてほしいんですか!?」
「辞めるなって言ってんじゃん。つかお前が辞める前日みたいなテンションで過ごしてるからだろ」
「もしかして心配してくれたんですかぁー?」
にやにやしながら冗談混じりに言ったら、もっかいネクタイとんできた。
「うっざお前」
「そんなにあたしに居てほしいんですか」
四季くんのこといじってみたら、
「そんなの居てほしいに決まってんだろ」
「……」
そんなふうに返す四季くんはずるいとおもう。うわてだとも思う。
「そ、そりゃあたしが抜けたら、四季くんの仕事量、増えますもんね……!」
なんてしどろもどろ返すはめになったあたしを、四季くんが眺める。じっと。
「そういうんじゃないけどな」
着替えるから出てってなんて、追い出されてしまった。
四季くんって。なんか、独特。
笑わないし、口悪いし、表情なんか氷みたいに冷たいし、でも言ってることは結構優しかったりして。
理太と全然違う。
……でもなんか助かった。
今だけ、理太のキスシーンが頭に中に浮かんでこなくて済んだから……。