きみのこと、極甘にいじめたい。
◇
昨日は部活帰りの理太と、バイト帰りのあたしの生活リズムが違ったせいか、家で顔を合わせることはせずに済んだ。
そして今朝、一応朝食は用意しつつ、さっさと家を出させてもらった。
……つまり、理太と一度も口をきいてないし、顔さえ合わせてない。
そんな、朝の校内は……やっぱり理太の話題でもちきりだった。
学年違う人まで話題にしてるじゃん……!
やっぱり、理太ってすごいモテる人なんだな……。
突如頭をかすめたキスの光景に、じくりと胸が痛くなる。
……なんで、こんなに嫌なんだろう。
もう理太のこと好きなんかじゃないのに。
何、傷ついてんだろう。
「おっはよー素直!」
ドンと背中を押されて、前によろけてしまい、驚いて振り返ると。
別のクラスの友達がいた。
「……もー、みほりん! 背後は卑怯でしょ!」
「ごめーん、そんなことよりさぁー」
すぐに腕をがしっと組まれて、興味津々の目がきらきらとあたしを向いている。
「素直の親戚の理太って、頼めばキスしてくれるってマジ!?」
「な……」
なんっていう噂がこの数時間で回ってるの……!?
「ちょっと待ってよ、そんなの嘘だって!」
「えー!? デマなの?!」
「そう! デマ! 全部昨日のは何かの間違いなの!」
と、こういう絡みを、たくさんの生徒から散々うけては火消しをして、教室にたどり着いたころには息切れしていた。
「……つかれた」
みんなの噂話をひとことでまとめると、理太は頼んだら誰にでもキスをしてくれるチャラ男。
そんなわけないもん。
……いや、チャラいってのは、正解だと思うけど。
でも頼めばキスをしてくれるようなクズな男子ではないでしょ……?