きみのこと、極甘にいじめたい。
そう思ったのに、理太はしゃがみこんだあたしの目の前で腰を落とすと、


――コツン。



額と額を合わせて……



「……そんな怖がんなくても、俺がいるじゃん」


とか、そういうことを言う。


「う、うん」


「何が怖いの? 音?」


「音と……、停電」


「もし停電になったら、俺がなんとかするし」



ヘーゼルの瞳が、近くからあたしを捉える。



「音は、俺が耳塞いでてあげる」


「ひゃ……っ」




両耳を覆う手がひやりとした。



その目は純粋だ。あたしを弄ぶときの、たらしの目なんかじゃない。



そう、理太ってやつは、根は優しいんだと思う。だからこそ、みんなに優しくて、みんなを勘違いさせてしまう天然たらしで……。



とにかく、こんなに優しいのに……あたしはガスを切ってしまったんだ。



罪悪感にさいなまれながら、理太の優しさを噛みしめる。



「……ありがとう、理太。ほんとごめんね、ガス切っちゃって……」



耳を覆う理太の手をあたためるべく、あたしはそっと握った。



「お詫びに、理太の体……あっためるよ」



せめてもの償いで提案したら、ヘーゼルの瞳がぐらりと揺れて……。



「……え、」


「? どうしたの?」


「……んーん、なんでもない」


ごほんと仕切り直すように咳払いした理太は、あたしに問う。


「じゃあ俺の部屋、来る?」


「うん」



いつの間にか遠のいていた雷がゴロゴロ……と音を届けた。



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