きみのこと、極甘にいじめたい。

「まーでも、残念ながら今日は俺の方が早起きしちゃったけどねぇ?」



さっと寂しさを消したヘーゼルの瞳が、意地悪く細まっていく。



「! まさか一緒に学校行く気!? ぜったい嫌だから!」


「は」



え、鼻で笑われたんだけど……。



なんで理太、わかってくれないの!?


代償だって支払い済みじゃん! ほっぺにキス!


あのたらしには、ほっぺにチューじゃ足りないんだろうね……!


……っ、ハ。
もしかして、あたしにキスされたところで、嬉しくなかったんじゃ……。


ってそれはそれでむかつくな。


おっと脱線した。



とにかくあたしは、今の人間関係を崩したくないし、逆にそれ以外なにも要らないくらい友達が大事なの……!



険しい顔のまま口をぱくぱくさせ、何て言い返そうかって思っていたら。




――ポス。



あたしの肩に理太の頭が埋まって、どきっとした。



「なんて……うそだよ。いじわるしたかっただけ」



しおらしくつぶやくと、甘えるみたいにそのままあたしを抱きしめる理太。



ドッドッドッド……と心拍数は上がりつつも、とめどなくあふれ出てるこれは、母性。



寂しそうな理太、甘えっぽい理太に、まるで魔法をかけられたみたいだ。


理太のぜんぶ、受け止めてあげたくなる。



「……理太、ごめんね。本当は一緒に学校行きたいし、仲良くしたいけど……ごめんね」



ぎゅっと抱きしめかえした。



かたい胸板に頬をすり寄せて……。



心を込めて、抱きしめる。


理太、あったかい……。



――チクタク、チクタク……。


時計の音さえ心地いい……と酔いかけたとき。



まるで監督がカットを入れるかのように。



「はい、おっけー。遅刻完了」



そう、理太は言った。


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