きみのこと、極甘にいじめたい。
「それ、先生にパシられたの?」
「そうそ。今日あたし日直なんだよね」
「手伝おっか?」
と、親切な俺は、半分以上のノートを持ち上げた。
「先生のパシリって名義なら、俺と二人で教室に入ったって不自然じゃないよね」
「どうでしょうねぇ? でも理太だからなぁ……」
「てか、俺は気を遣ってみんなの前では”明田川さん”って呼んでんのに、素直は理太って呼んでいいの?」
「周りが理太って呼んでるから、あたし絶対つられてぼろが出ると思って……。それに夏八木くんなんて呼ぶの恥ずかしいし……」
「俺も恥ずかしんだけど。明田川さん」
「……、こっちもそう言われるの、結構はずかしいよ!」
――ドスッ
「ん?」
なに素直の分も全部、俺のノートの上に乗っけてんの。
「じゃあお言葉に甘えて手伝ってもらうね! お願いします!」
俺にぜんぶを押し付けた素直は、颯爽と廊下を走っていった。
いや、逃げて行ったって言った方が正しいんだよね、きっと。
ここから見える限り、素直の後ろ姿を目で追ってる。
廊下で友達とすれ違うたびに楽しそうに挨拶を交わしながら走っていく素直。
見てるだけで、なんか楽しくなるとこが好き。
楽しそうに沸く笑い声が徐々に離れて行き、俺はひとり、この迷路のような廊下に取り残されて、ノートを抱えて歩く。
……まあ、全然いいけどね。
あとで覚えといてね、素直ちゃん?