きみのこと、極甘にいじめたい。
そんな悩めるあたしの思考は、麻子さんののんびりした声で、遮られてしまった。


「ねー、素直ちゃんって彼氏いるの?」


「いないよー?」


「そっかぁ。でも可愛いしモテるでしょ?」


「そうなのか?」


お父さんにまで聞かれるのは、なんか嫌だな。


「ないない。モテたことないよー」


と言いながら、会話を理太に向ける。だって今日の主役は理太だからね。


「だけど理太はモテるよ! 学年関係なしに毎日のように『かっこいい』って騒がれてるよね」


と、隣に視線を向ければ「さーね」とそっけなく返されてしまった。


おーい愛想、どこいった?



「ふーん、理太やるじゃない。あ、素直ちゃんは理太のことかっこいいって思う?」


麻子さんとの付き合いは浅いけど、それでもわかる。
麻子さんは天然だ。


……本人のいる前で聞かないでよ。



「とりあえず見た目だけはストライクなんです」なんて本音をいえるわけがない。



「……かっこいいとかは、あんまりわかんないかなぁー」


「えー、男として見えない?」


「見えない、かなぁー……?」



あはは、と苦笑いして流すと、麻子さんは理太そっくりな柔らかな笑みをつくり、



「あはは。理太振られちゃったねー」


と、冗談をいってわらっているけれど。


……凍る。


隣の理太からの冷え切った眼差しで……右半身が凍ってきた。


理太は、あたしにぞんざいに扱われるのを許さない男なんだから、怒るに決まってる。


かといってあたしは、同居人の……まして令和のたらし理太のご機嫌を取って暮らす気なんてさらさらない。


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