きみが空を泳ぐいつかのその日まで
つぼみ
「なぁ、理人の髪色ってなんなの?違和感しかねーんだけど」
「うるせーな、ほっとけよ」
高校生活が始まって間もない朝、教室に着くと私の席はクラスメートに占領されていた。
隣の席の久住君を挟み込むようなかたちで、嶋野君と戸田さんが楽しそうにおしゃべりしている。
「黒髪好みの女か」
「えー、久住彼女いんの?」
「寝かしてくれないエロい年上彼女がいるっぽい」
「テキトーなことばっか言うな! ねぇ久住、そーだよね?」
テンション高めな話し声はほとんどが嶋野君と戸田さんのもので、当の久住君はといえば机につっぷして、ほとんど相手にしていない。
クラスでもひときわ目立つあの三人の輪のなかに自分みたいなのが飛び込めるわけがなくて、教室の入り口付近でずっと待機してる。チャイム、まだ鳴らないのかな。
時間が気になって顔を上げたとき、眠そうな表情の久住君とおもいきり目が合った。迂闊だった……あわてて下を向いたけどたぶん回避できてない。
「……戸田あのさ」
気だるそうに、でもはっきりとした口調で久住君がそう言うのが聞こえた。
「ん?」
「ピアス、見せて」
「どっち? 今日右と左で違うんだよね」
「んーと、そっち」
ガタガタと椅子を引く音がした。そっと顔を上げると、右耳に触れながら戸田さんが椅子から立ち上がるところだった。
「あんまマジマジ見ないでよね、恥ずかしいじゃん」
左隣にいる久住君に右耳のピアスを見せようと、戸田さんは彼の反対側に回り込もうとしていた。
すごい、席が……空いた。
そう思ったものの、体はすぐに動かない。
迷っていると、久住君の口が「ほら」と動いた気がした。
さっさと座れよ。
彼の目がそう言ったのがはっきりわかった。
「ね、ピアスは? なんで即寝? ありえないんだけど!」
「ぎゃはははは、うける~」
騒ぐふたりを気にもとめず、彼は机の上に上体を投げ出して、もうちいさな寝息を立てていた。
もしかして、助けてくれたのかな。
ちらりと隣を見つつ席に着くと、すぐに本鈴が鳴って先生がやって来た。
久住君、先生見てるよ?
寝てたら怒られちゃうよ?
……なんて気軽に言える性格なら、日常でこんなに苦労していない。
グズグズしている間にも先生が鬼の形相でこっちにやってきた。
「久住おい……コラ!」
それなのに、彼は魔法にかかっているみたいにその太い声にぴくりとも反応しない。あちこち身体をつねられてもまったく起きなかった。
すごいな。人ってこんなにも深く眠れるものなんだ。
感心していると、こっちを振り返っている戸田さんとばっちり目があった……というか、睨まれていたかもしれない。
「うるせーな、ほっとけよ」
高校生活が始まって間もない朝、教室に着くと私の席はクラスメートに占領されていた。
隣の席の久住君を挟み込むようなかたちで、嶋野君と戸田さんが楽しそうにおしゃべりしている。
「黒髪好みの女か」
「えー、久住彼女いんの?」
「寝かしてくれないエロい年上彼女がいるっぽい」
「テキトーなことばっか言うな! ねぇ久住、そーだよね?」
テンション高めな話し声はほとんどが嶋野君と戸田さんのもので、当の久住君はといえば机につっぷして、ほとんど相手にしていない。
クラスでもひときわ目立つあの三人の輪のなかに自分みたいなのが飛び込めるわけがなくて、教室の入り口付近でずっと待機してる。チャイム、まだ鳴らないのかな。
時間が気になって顔を上げたとき、眠そうな表情の久住君とおもいきり目が合った。迂闊だった……あわてて下を向いたけどたぶん回避できてない。
「……戸田あのさ」
気だるそうに、でもはっきりとした口調で久住君がそう言うのが聞こえた。
「ん?」
「ピアス、見せて」
「どっち? 今日右と左で違うんだよね」
「んーと、そっち」
ガタガタと椅子を引く音がした。そっと顔を上げると、右耳に触れながら戸田さんが椅子から立ち上がるところだった。
「あんまマジマジ見ないでよね、恥ずかしいじゃん」
左隣にいる久住君に右耳のピアスを見せようと、戸田さんは彼の反対側に回り込もうとしていた。
すごい、席が……空いた。
そう思ったものの、体はすぐに動かない。
迷っていると、久住君の口が「ほら」と動いた気がした。
さっさと座れよ。
彼の目がそう言ったのがはっきりわかった。
「ね、ピアスは? なんで即寝? ありえないんだけど!」
「ぎゃはははは、うける~」
騒ぐふたりを気にもとめず、彼は机の上に上体を投げ出して、もうちいさな寝息を立てていた。
もしかして、助けてくれたのかな。
ちらりと隣を見つつ席に着くと、すぐに本鈴が鳴って先生がやって来た。
久住君、先生見てるよ?
寝てたら怒られちゃうよ?
……なんて気軽に言える性格なら、日常でこんなに苦労していない。
グズグズしている間にも先生が鬼の形相でこっちにやってきた。
「久住おい……コラ!」
それなのに、彼は魔法にかかっているみたいにその太い声にぴくりとも反応しない。あちこち身体をつねられてもまったく起きなかった。
すごいな。人ってこんなにも深く眠れるものなんだ。
感心していると、こっちを振り返っている戸田さんとばっちり目があった……というか、睨まれていたかもしれない。
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