きみが空を泳ぐいつかのその日まで
今いったい謹慎何日目なんだろう。
それにしてもなげーなぁ。
充分反省はしたつもり。
もう大人しく家にこもっている気はない。

思い立って部屋を出た。
うつむいたまま、シャワーを浴びた。
なにかが、どこかが虚しい。

黒髪に戻して、身に付けていたジャラジャラを外して、赤ん坊の匂いが服についたところでそんなものは所詮まやかしで、俺はやっぱり俺のままだった。

風呂から出て鏡の前に立った。
久しぶりにワックスを使ってみたら、指先からリンゴ飴みたいなあまったるい匂いが弾けた。

前髪こんなに厚ぼったかったっけ。
耳はちょっと出してみるか。
ピアスはいらない。

ほっぺたの絆創膏は貼り替えないと。
治りかけの生傷エグいから。

目の前にあの頃の自分がいた。
髪色が違うだけで、プリや誰かの携帯のなかに残っている、よく知ってる顔だった。

私服でもよかったけど、こっちのほうがお互いを見つけやすいかもと思って制服を着た。

また片袖だけアイロンを忘れた。
この癖はなかなか抜けそうにない。
ていうか、気にしてないからたぶん直らない。

こっそり家を出て、まだ昼間の熱のこもった夕暮れの道をとりあえず歩いた。

時折吹く風に急かされてる気がして、共通の友人に片っ端から当たってみようか、とスマホを手に取った。

通話をしながらも、足は自然とあの場所へ。
当時ふたりでよく寄り道した、エリの中学からすぐそばの公園に行ってみようと思って。

数駅をやりすごして降りた駅からすぐのその公園は、そこだけ時間が止まっていたのかと思うほどに当時のまんまだった。
並んで座ったベンチも、塗装が所々剥げた黄色い滑り台も、何もかも。

エリの連絡先はなかなか手に入らなくて、次第に空の色は薄らいでいった。

くたびれついでにブランコを漕いだら軋んだ音が響いて、それすらあの頃と同じような気がした。

間抜けな音に揺られながら暮れていく空をぼんやり見ているとスマホが鳴った。
誰かが手がかりをみつけてくれたのかもしれない。

「もしもし? なんかわかった?」
「りー君」
「うそ……エリ?」
「うん」

俺のことをこんなこっ恥ずかしい呼び方をするのは後にも先にもこいつだけなんじゃないかな。

「いきなりごめん。どうしても話したくて、いろんな人にあたって番号聞いちゃった」
「そっか」

お互いに同じことをしていたらしい。けど、それを伝えようとは思わなかった。

「エリ今どこにいんの?」
「あの公園だよ」
「え?」

そう言われてあたりを見渡してみたけれど、それらしき人影はなかった。

「もしかして、俺んちの近くの方?」
「そう」

道草をくった公園はこことは別に、もうひとつうちの近くにもあった。

「もしかしてりー君あっちの公園にいるの?すぐ行くね、行っていいよね?」
「いやいい。俺が行く」
「えっ、待って!」

せっかく繋がった電話を、迷わず切った。
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