きみが空を泳ぐいつかのその日まで
帰ろう。自分には帰る以外に予定はないし、学校は家より居心地が悪い。

足早に昇降口で靴を履き替えて自転車置き場へ。いつもどおり夕日が降りていく駅のほうへ、ひたすら自転車を漕ぐ。

千絵梨(ちえり)とお母さんはどうしてるかな。元気にしてるかな。

特に会いたいわけじゃないし、むしろ顔を合わせるのは気まずい。
それなのにこの時間になると決まって去っていったふたりのことを思い浮かべてしまう。

中学のときに両親が離婚したから、姉と名字が変わってずいぶん経った。

私だってもう高校生だし、家族はみんなそれぞれの時間を生きている。
咲いた桜はかならず散るし、季節は移ろうものでそれは特に不自然なことじゃない。
過去を懐かしんだってなんにもならないってちゃんとわかっている。

それなのに、胸の辺りをキリキリさせる、この虚しさはなんだろう。
喉に魚の骨が刺さってるみたいに、ちくちくとした嫌な痛みがいつまでも消えてくれない。

お昼だって購買やコンビニでいいのに、高校に上がるとなぜだかお父さんは毎日お弁当を作ってくれるようになった。

焦げたたまご焼きが入っている色味のないお弁当をクラスメートに見られるのは恥ずかしいし、人のいない場所を探してこっそり食べるのにも疲れた。

ちゃんと感謝してるけど、本音を言えばいらない。でも、お父さんを傷つけたくないからそんなこと言えないし。

自転車、進まないな。
ペダルが重い。
お弁当がからっぽじゃないからなんだと思ったら、スイッチが入ったみたいに胸が痛くなった。
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