きみが空を泳ぐいつかのその日まで
「じゃあな」
「……うん」
「会えてよかったよ」
本心だった。
エリに出会えてよかったと思う。
「あたしも。ありがとう」
スマホを下ろしてエリに手を振った。
(バイバイ、りー君)
赤い唇がそう動いて、どんどんあいつが小さくなって見えなくなって、電車は夜の向こうに姿を消した。
視線の先にはホームからの見慣れた殺風景があるだけ。
深く深呼吸して、今度はあらかじめ調達しておいた番号に電話した。
「……なぁ、おまえ鼻の骨折ったって?」
気だるい低い声がコールに応答したからそう言った。あいつの声なんて聞きたくないし、胸くそ悪くなるだけなのに。
「……ごめん」
唐突にそう言ったらやつは絶句した。
「悪かったよ。だからもう俺に関わんな。おまえに会っても逃げるし俺」
あーあ。
やっぱキャラ変って柄じゃない。
「はぁ? バカになんてしてねーわ。頭下げて心から謝罪してんだろーが!」
してないし、見えるわけがない。だけどちゃんと反省はしていた。
「とにかく、俺もう痛いのやなんだよ」
主に心がね。
「だから俺に、俺らにもう関わんな。このまえのツレ根性あったろ? そういう筋の女なんだ」
もうなんとでも言ってしまえ。
「あいつになんかあったら、俺もおまえもこの街で普通に生きてられなくなるんだって……それだけ忠告しとこうと思ってさ。つまりあれは」
ここで強制的に通話終了をタップした。
ドラマみたいに余韻を含ませる演出だ。いろいろ想像してくれたらいいんだけど、終始絶句してたからそこそこ成功か。あいつが頭悪くてよかった。
お互い充分痛い思いをしているし、当分はちょっかいを出してくることはないだろう。
夜のホームで電車が通過する風に煽られて、あの日のことを思い返していた。
棒一本を握りしめて、彼女はどんな気持ちであの場に来たんだろう。そんなことを考えると、気がふれそうになった。
しかも盗んだ店が「美鳥家」って、どんだけあの人に励まされてんだ。
ふたりで会えたらよかったな。
あの夜、みどりさんて人に。
気を抜くとこぼれそうになるため息すら飲み込んで、速攻でトキタの番号を削除した。
流れ作業のように、エリからの着信履歴も消した。
それでいいんだと思う。
俺にはそれくらいが、たぶんちょうどいい。
「……うん」
「会えてよかったよ」
本心だった。
エリに出会えてよかったと思う。
「あたしも。ありがとう」
スマホを下ろしてエリに手を振った。
(バイバイ、りー君)
赤い唇がそう動いて、どんどんあいつが小さくなって見えなくなって、電車は夜の向こうに姿を消した。
視線の先にはホームからの見慣れた殺風景があるだけ。
深く深呼吸して、今度はあらかじめ調達しておいた番号に電話した。
「……なぁ、おまえ鼻の骨折ったって?」
気だるい低い声がコールに応答したからそう言った。あいつの声なんて聞きたくないし、胸くそ悪くなるだけなのに。
「……ごめん」
唐突にそう言ったらやつは絶句した。
「悪かったよ。だからもう俺に関わんな。おまえに会っても逃げるし俺」
あーあ。
やっぱキャラ変って柄じゃない。
「はぁ? バカになんてしてねーわ。頭下げて心から謝罪してんだろーが!」
してないし、見えるわけがない。だけどちゃんと反省はしていた。
「とにかく、俺もう痛いのやなんだよ」
主に心がね。
「だから俺に、俺らにもう関わんな。このまえのツレ根性あったろ? そういう筋の女なんだ」
もうなんとでも言ってしまえ。
「あいつになんかあったら、俺もおまえもこの街で普通に生きてられなくなるんだって……それだけ忠告しとこうと思ってさ。つまりあれは」
ここで強制的に通話終了をタップした。
ドラマみたいに余韻を含ませる演出だ。いろいろ想像してくれたらいいんだけど、終始絶句してたからそこそこ成功か。あいつが頭悪くてよかった。
お互い充分痛い思いをしているし、当分はちょっかいを出してくることはないだろう。
夜のホームで電車が通過する風に煽られて、あの日のことを思い返していた。
棒一本を握りしめて、彼女はどんな気持ちであの場に来たんだろう。そんなことを考えると、気がふれそうになった。
しかも盗んだ店が「美鳥家」って、どんだけあの人に励まされてんだ。
ふたりで会えたらよかったな。
あの夜、みどりさんて人に。
気を抜くとこぼれそうになるため息すら飲み込んで、速攻でトキタの番号を削除した。
流れ作業のように、エリからの着信履歴も消した。
それでいいんだと思う。
俺にはそれくらいが、たぶんちょうどいい。