【完】無気力ですが、ベタ惚れ彼氏の溺愛方法に困ってます
そもそもまだ走ってさえいない。
「諦めないで走りましょ! 全力で!」
ん……?
今、彼の眉根が微かに寄せられた気がしたけれど、今は気にしている場合じゃない。
「諦めないでって言葉、なかなか嫌い」
「〜〜〜!? とにかく……っ、全力で走りますよ!」
「置いてったっていいのに。変な奴」
「あっ!信号のとこにバスが! 早く行きましょ! 息切れしてもいいですから!」
真剣な眼差しで訴えてみせると、彼はふっと眉を下げた。
「俺、本気出したら速いよ?」
「えっ……ちょっと!? わわっ!!」
身体が傾きそうになったのは、彼がパシっと私の手を掴んだから。
あっ、と思った時には、彼が私の手をしっかりと繋いでくれていて、動けずにいたその場所から走り出していた。