すばるとしみずのあいだには、しゅっとしてもふもふのおれがいる。
すばると女子会 おまけの小話
おまけの小話(読み飛ばしても無問題)!!
『えりさは眠り姫』
莉乃の膝に頭を乗せて、ごろごろしていたのをついさっき見たのに、次に頭を上げた時、英里紗はもうすやすやと眠っている。
朝には起きてくるが、本調子になるまでずいぶんと時間がかかるし、昼寝をしないと夜まで起きていられない。
その代わりと言うべきか、どうなのか。
起きている間は、元気で賑やかで、とにかく楽しそうに過ごしている。
反対に莉乃はいつでもほっこり、アクティブと言うよりは、のんびりと時間を過ごすことが多い。
今もゆっくり読書をして、空いた方の手で英里紗を撫でていた。
すばるもその光景にほっこりと顔を綻ばす。
それを見ている清水もにこりと笑って、すばるにまとわりつく。
騒いで英里紗を起こさないように、ぐいぐい清水を押し返した。
「ふふ……なんだか良いねぇ、こういうの……いつまで続くかな」
「……なんだよ、やめろって」
「できるだけ長く続くように努力しようねぇ」
「そういうこと言うなって」
食材の買い物に出かけて、清水とふたりになったのを理由に、さっき交わされた会話が気になったと話した。
清水は一瞬顔を顰めて、ううんと唸ってすばるの手をぎゅうと握り直す。
「莉乃はね、純粋なワーウルフ……親がどっちともワーウルフってことね」
「……はい」
「英里紗は違う……母親が人間だって」
「ああ、そうなんですか?」
「ハーフだから能力が半分ってことは無いんだけど」
「……はぁ」
「まぁ、純血のワーウルフとはいかないというか」
「え……と、意味がよく?」
「莉乃も英里紗も400年以上生きてて」
「……はい」
「そうなってくるとやっぱり差も出てくる訳で……」
「……清水さん?」
「寝てないとダメな時間がどんどん増えてるって」
「…………え?」
「保たないんだって、色々と」
「そ……うなんですか?」
「いつか起きられなくなる日が来るって」
「…………え?……そんな……」
「だから莉乃は甘々になるし……まぁ、俺もなんか、英里紗に何か返さないととか、色々思ったり、思わなかったり」
「清水さん」
「なんだかんだ俺……好きだし、あの人たち。まぁ、拾って育ててもらった恩は感じてるし…………だから、すばるさんが莉乃と英里紗をにこにこしながら見てると嬉しいんだよね」
のん気に微笑ましいと思っていたのも、単純に仲が良いと思っていたのも、なんて浅かったのかとすばるは胸が痛い。
ほろりと目から水の球が転がり落ちると、清水は慌ててそれを抑えようと頬に両手を当てた。
「ちょ……ちょっと……待って、泣かないで」
「だって……」
「いつかなんて、ずっと先だからね!」
「……でも」
「たぶんだけど、すばるさんの感覚だと『いつか』は3年とか5年とかって思ってない?」
「…………あれ?」
「位が違うからね! 一桁違うから!」
「……それでも、やっぱり」
「ねぇ、あの人たちその頃には500歳とかだよ! もう500年生きてることになるの! いい加減もういいでしょ!」
「……そんな! 清水さんひどい!!」
「えええ?! まぁ……そうだけど」
長い長いふたりの人生の中で、楽しいことより、そうで無いことが多かったのは、逐一話を聞かなくても清水には解っている。つもりでいる。
その時その時を楽しもうとする英里紗の性格も、それを包み込むような莉乃の想いも、いつ途切れたとしても構わない生き方をしてきたからこそだと。
「……すばるさんは?」
「…………え?」
「俺と500年ずっと一緒にいてくれる?」
「……私は精々、どう頑張ってもあと80年ほどですよ?」
「ああ! クソ、そうだった!! やっぱり結婚!!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
いつか来る別れの日が、近かろうと遠かろうと、全部が大切な日々だということには変わりない。
と、柄にもなく殊勝な心持ちでふたりは手を繋ぎ直した。
おまけの小話、でした!