あなたの願い、残酷に叶えます。
こんな状況で嘘なんてつかない。


俺は心から紗弓のことを愛していて、守りたいと思っている。


その時、紗弓の目に涙の膜ができた。


ジワリと浮かんできたそれは音もなく頬を流れていく。


好きな人の涙は見たくなかった。


でも、紗弓の泣き顔は他の誰よりも綺麗だった。


まるで、朝露に濡れる白いユリの花みたいだ。


「紗弓、好きだ」


言うつりもじゃなかったのに、つい口に出てしまった。


言ってしまってからハッと我に返る。


今のも、景子との約束を破ってしまったことになるんだろうか?


でも、もういいよな?


俺はもうすぐ紗弓の前から消える。


最後の最後だから。


紗弓が泣きながらゆっくりと口を開いた。


俺を見ないようにうつむいている。


俺は目を閉じて紗弓がその言葉を言うのを待つ。


「どうぞ、その子を差し上げます」

< 137 / 244 >

この作品をシェア

pagetop