あなたの願い、残酷に叶えます。
そんな仕草も可愛くて、また笑顔がこぼれた。


紗弓はいつだってそうだった。


どんな時でも俺を笑顔にしてくれる。


本人にそんな自覚がないのはわかっているけれど、それでも俺は救われてきたんだ。


「どうぞ、俺を差し上げます」


俺は紗弓の代わりに言った。


紗弓が勢いよく顔を上げて俺を見る。


それでも俺はやめなかった。


「どうぞ、俺を差し上げます」


「どうぞ、俺を差し上げます」


壊れた機械みたいに繰り返していると、急に部屋の温度が下がったのがわかった。


吐き出す息が白くなっている。


俺は静かに部屋の中を見回した。


なにも、いない……?


そう思った次の瞬間だった。


紗弓が目を見開き、指をさし、「横!」と、叫んだ。
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