南の島のクリスマス(十年目のラブレター)
 男性二人が島に一つしかない民宿に行ったのはもう日付も変わる頃。

「課長ーっ!美味しかったっすねー、うぃっ。」
「お前飲み過ぎだし、はしゃぎ過ぎ。」
「でも未来ちゃんのお母さんノリも良くって良い人っす。」
「バーカ…ただお前に合わせてくれてんのが分からねえのか。お子ちゃまはこれだからなあ。」

 課長の言葉が(しゃく)に触ったのか急に黙る亮。

「亮…お前」
「何すか?」
「冬月ちゃんのことはもう諦めろ。」
「なんでっすか!俺、諦めないっす。未来ちゃんと結ばれたいからこの企画立てたのに…それじゃあべこべじゃないっすか!」


「俺…諦めないっす」
「冬月ちゃんには好きな人いるんだ。お前じゃ無理だよ。」
「誰なんすか!そいつ?」
課長に詰め寄る亮の目はギラギラと常軌(じょうき)(いっ)しそうな怪しい光を宿す。


「知らねえよ。ただ冬月ちゃんの目にはその人以外は(うつ)らねーってこと。」
「そんなの分からないじゃないっすか。」
「冬月ちゃんに何かしてみろ、俺がお前許さないからな。」
「それってもしかして課長も(ねら)ってます?」
「…」


 それっきり課長は何も話さなくなったらしい。遠くに見えるホテルの工事はまだ続いているようで、家のベランダから(かす)かな灯りが見えた。

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