南の島のクリスマス(十年目のラブレター)
「ここから港が見えるんですよ。」



「ここからずっと見てたんだ…彼が島を出ていくのを。」
「はい…」


 5年ぶりにお母さんと会ったからか…それとも高2の時の准の写真を見たからかは分からないけど…准が出て行った年のクリスマスのことを思い出した。


 民宿から出てくる准を見た夜、お母さんの手伝いをしながら話していた。


  ーー港の近くの民宿あるやん。
    今日ね、そこから出てくる准を見たさ。

  ーー准って…あの准?
  ーーうん。

  ーーなわけないさあ。だって准は…。

思い切り否定した後、言葉を(にご)したお母さん。

  ーーなんでよ?!
  なわけないってどういうこと?
  だって准は何?


 あの瞬間、時が止まり准がよく聴いていた宇多田ヒカルの『automatic』が流れた。

    嫌なことがあった日も
    君に会うと全部吹っ飛んじゃうよ

  ーーだって…さあ…お父さんの
  あんことがあるやない。


誤魔化(ごまか)された感じはしたけど、そのことを言われるとそれ以上は何も言えない。
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