堕天使系兄の攻略方法。
柚だけは上手くいかない。
こいつだけは俺の予想もしていないところを突いてくる。
いつだって斜め上から来るくせに、正面突破だ。
「…おかえり」
病院から出てきたそいつは俯くように俺の前に立った。
ジュースを差し出すと静かに受け取ってくれる。
「…ありがとう」
「俺の飲みかけだけど」
「……さすがお兄ちゃん」
なにがあったのかは聞かない。
どんな話をしてきたのかも、聞きたくない。
お前はこれからもいつも通り俺の家族として過ごすんでしょ?
「…私、…お母さんと暮らす」
「駄目」
「…これはもう私の中で決定事項だよ」
「うん、駄目」
その手を引いて夜道を歩く。
家とは少し反対方向へ向かったのは、まだ2人きりで居たかったから。
兄妹に戻りたくなかったから。
「…過労で倒れたんだって。…ろくな睡眠も食事も取ってないから」
大体は想像がつく。
あの笑顔は今にも倒れてしまいそうだったから。
だから俺だって「どうして柚の誕生日に出て行ったんですか」って、無責任に責められなかった。