堕天使系兄の攻略方法。
湊side




“名前すら呼べないけど”

“本当は後ろじゃなくて隣を歩きたかった”

“好きすら言えない私は───”



こういう曲は好きじゃなかった。

甘ったるくて、聞いてるこっちが恥ずかしくなるような歌詞の歌は。


けれどそいつが歌ってる音は、瞬きをすることすら惜しいと思ってしまうくらいに視線を奪われた。



「…妹さん、とても上手ですね」



隣に立つ後輩にそう言われても、返事すら出来なかった。


ざわめく観客が見ているボーカルの目からは涙がポタポタと垂れている。

それでも歌は震えることなくまっすぐ伝えてくれるから。



「…俺だって同じだよ」



俺の気持ちなんか伝わってくれないし、どこまで意地を張ってるんだと少しからかってみれば。

お前はいつの間にか俺の前から消えようとしてさ。


───大切な人って、誰…？


それは俺じゃないの？単なる勝手な自惚れ？



「……ありがとう…ございました」



拍手の中、そいつは伏し目がちに微笑んだ。

この空間の中で初めてそいつは俺から目を逸らしたのだ。


ずっと俺の目を見て歌っていたんだから、自惚れないわけがないだろう。

ねぇ、柚───。



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