地味で根暗で電信柱な私だけど、あったかくしてくれますか?
 アパートの最寄り駅に着いたときマナーモードにしておいたスマホが震えた。

 そうだよね、お前も寒いよねと無言で語りかけながら画面を確認する。佐藤さんからのメッセージが来ていた。

 不思議だ。

 佐藤さんからというだけで画面の奥に虹が浮かんで見える。文字だってキラキラだ。



 おはようございます。

 今日も午後一時半くらいにお店に伺いますね。



 別段、甘い言葉が書き連ねてある訳でもない。ごく平凡な挨拶と予定が記されているだけだ。それでも彼のメッセージが来たことが嬉しかった。

 もちろんもっと気の利いた文面を期待してなくはない。愛してるとか好きだよとか、それがたとえ文字であっても好きな相手からならそれだけでその日一日を幸せに過ごせそうな気がする。

 私は溢れかねない気持ちを抑えてあえて簡単に返信した。



 佐藤さん、おはようございます。

 今日は特に冷えますから暖かくして外回りをしてくださいね。

 佐藤さんが来るのを楽しみに待ってます。



 送信してしまってからやはり簡潔すぎたかなと後悔する。長文で返すのは重いと思うものの短文なのもひょっとしたら気分を害してしまうかもしれない。そっけない女だと思われないだろうか。

 相手が佐藤さんだということも不安を煽った。

 彼に嫌われたくない。

 むしろもっと好きになってもらいたい。

 私はスマホの画面をじっと見る。

 そこにはもう虹はなかった。何の変哲のない表示が映っているだけだ。私の浮かれた心を打ち消すかのような冷徹さがそこにある。

 急に自分が虚しくなってきた。

 ホームのアナウンスが混雑する人の波に紛れて聞こえてくる。私の乗る列車の到着を報せるアナウンスだ。これに乗り遅れたら遅刻してしまう。

 私はスマホを仕舞い、走った。
 
 
 
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