転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 相づちを打っていると、ひときわ大きい歓声が耳に届く。振り返ると南側に人だかりがあり、棒に上った猿の姿がちらりと見える。

「大道芸の舞台みたいですね。少し見て行きましょうか?」
「そうだな」

 ドキドキと見守りながら猿の芸を鑑賞し、近くの露店を覗いて回る。
 すべての店に共通するのはめったに出回らない品物が陳列されているが、どれも目を瞠るほどの高値であることだった。シャーリィには逆立ちしたって買えない。アークロイドもそこまで興味が引かれるものには出会わなかったらしい。
 中央広場の露店はすべて巡ったが、ここからどうするか。休憩を挟むべきか悩みながら、横に立つアークロイドに結論を委ねる。

「次はどこを見て回ります? 高台で少女歌劇団の演劇と歌姫の催しもやっています。チケットを買っていないので、遠くからの立ち見になりますが……」

 特設舞台での演劇はお昼の一大イベントだ。入場制限もあるので、早めから席取りをしなければならない。顔が曇ったシャーリィに気がついたのか、アークロイドは首を横に振った。

「いや、今日はこのあたりを見て回りたい。他におすすめはあるか?」
「中央広場は人が密集するので、あえて人が少ない通りに出店する人もいますよ。……時間もたっぷりありますし、五つの通りを巡ってみるのもおすすめです」
「五つの通り?」
「あれ、ご存じありませんか?」
「……中央広場までは来たことがあるが、周辺のことは詳しくない」

 ごほんと咳払いをして、シャーリィは意気揚揚と解説を始める。

「では説明しますね。この中央広場はいわば中継地点です。中央通り、東通り、西通り、職人通り、壁画通りに通じています。中央通りは道幅も広くなっており、観光客向けの施設が集合したメインストリートになります。中央通りは、目印として地面に花のプレートが埋め込んであるんですよ」
「花?」
「魔力を持った花です。夜になると淡く光るため、夜の花と呼ばれています。ほら、あそこに鉢植えの花があるでしょう? レファンヌ公国で咲く貴重な花ですので、中央通りはどこも店先にプランターを置いて楽しめるようになっています。そのため、地元民は中央通りのことをフラワーロードと言っているほどです」

 夜の花はすずらんのように鈴なりに咲く、白い花だ。昔から自生していた品種で、もともとは高地に咲いていたのを研究者が種を持ち帰って、鉢植え栽培を始めたのが普及して今に至る。
 左右に咲く花は目を引くため、写真撮影のスポットとしても人気だ。

「となると、夜にも観光客が花を見に来るということか」
「さすがアークロイド様ですね。そういったお客様もいらっしゃいますよ」
「観光客の受けはいいだろうな。昼と夜の違いを楽しめるということだからな」
「ええ。昼はランチを提供し、夜はバーになる店もあります」
「客商売がうまいな……」
「お褒めに与り恐縮です」

 協議の結果、中央通りから見て回ることになった。
 長官から前日にもらった軍資金で買い食いをしながら、一通りの露店の冷やかしを終えたところで、空は茜色に染まりだしていた。遠くの山の向こうに陽が沈んでいく。
 星祭りの本番は夜だ。店をたたむ行商人の姿を横目に見ながら、シャーリィはアークロイドに進言した。

「まもなく日が暮れます。アークロイド様には特等席をご用意しています。こちらへどうぞ」
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