転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 キビキビとした動作で立ち去っていくのを見送り、シャーリィは向かい側に座るアークロイドに紅茶を勧める。

「蜂蜜漬けのレモンティーです。よろしければ、どうぞ」
「…………」

 手で示すが、アークロイドは気まずそうに自分の従者をちらりと見やる。視線だけで会話しているのを見て、ふとダリアから聞いた話を思い出す。

「……あ、毒味が必要ですか?」

 背後に立つルースに向かって言うと、少し驚かれた表情をされた。毒殺の危険が日常となっている彼らからしたら、いきなり知らない場所に連れてこられて警戒をするのは当然だ。

(浅慮だったわ……喜んでもらいたかっただけなのに)

 暗殺や毒殺の話も、どこか現実味がなくて、つい聞き流していた。しかし、シャーリィにとって夢物語のような話でも、アークロイドには紛うことなき現実だ。
 シャーリィは自分の分の紅茶を一口飲み、彼らを安心させるように笑みを浮かべる。

「この国に、あなたたちを害そうとする者はおりません。どうぞご安心くださいませ」
「……別に疑っているわけではない」

 アークロイドはそう断ってから、ティーカップを傾けた。そして驚いたように目を瞠り、波打つ紅茶をジッと見つめる。

「これは……飲みやすいな。いつも飲んでいるレモンティーとは違う風味だ」
「お気に召していただけて何よりです」

 秘蔵の蜂蜜漬けを開けた甲斐もあったというものだ。内心一息ついていると、それはそうと、とアークロイドの声がワントーン低くなる。

「ルースから魔木が虹色に光ると聞いたが、いつ変わるんだ?」

 素っ気ない口調を装っているが、周囲が気になって仕方がないというように、そわそわと視線が落ち着かない。

(思ったより楽しみにされていたみたいね。よかった)

 腕時計の針を確認し、シャーリィは視線を上げた。

「もうすぐですよ。……あ、ちょうど今、打ち上がったみたいですね」
「なに?」
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