転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 夜空に夏の花が咲く。ドーンという音が遠くからし、また次の花火が打ち上がり、大小さまざまの花の形を描いていく。

「アークロイド様。光り出しました」

 シャーリィが指で示す先には、淡い光を放つ木があった。
 周辺の木々も、ぽつりぽつりと白い光を纏っていく。はじめは弱かった光が徐々に強くなると、白いもやが広がっていく。
 すると、その中に赤やオレンジの光が混じり合う。そして、パレットの試し塗りのように青や緑、黄色に変わっていく。くるくると変わる色はやがて虹色になり、もやが晴れる。

「これは……」

 魔木の変化を合図する花火は終わり、雲ひとつない夜空を埋め尽くすのは無数の星。その下には家の中より明るい、虹色に輝く魔木がある。
 東屋を囲む形で魔木が光っているのを眺め、アークロイドがほうっと息をつく。

「幻想的だな……」
「ええ。公国自慢の景色です。実際に触れてみますか?」
「……俺が触って平気なのか?」
「ただ光っているだけなので、危険はありません」

 東屋から出て、近くにある魔木まで歩く。虹色の光は呼吸しているように一定のリズムで明滅を繰り返している。
 シャーリィが木の幹にそっと手を触れ、問題ないことを見せる。それを確認し、アークロイドも同じように手のひらを伸ばした。

「……温かいな。いつもこうなのか?」
「いいえ。ここまで熱を持っているのは、星祭りの日だけです。目に見えるほどの魔力を帯びていると、こうなるそうです」
「なるほど。面白い」

 一人納得したようなつぶやきの後、アークロイドの灰色の瞳がきらめく。

「新月の夜にしか光らないのだったな? なぜ、この時期にだけ光るんだ?」
「わたくしも詳しくありませんが、一年で魔力が一番活発化するらしいです。魔木に貯まった魔力を放出するので、魔力が成長している証しだともいわれています」

 公国の者なら誰でも知っている知識を述べると、俄然興味をそそられたのか、アークロイドが早口で質問を繰り出す。

「これは前兆のようなものはあるのか? 確信があるから、星祭りも日付を指定しているのだろう?」
「よくわかりましたね。毎年、同じ時期の新月に決まって光り出すんです。ちなみに、二週間前から徐々に魔木が温かくなります。熱を閉じ込めているみたいに」
「なるほどな」
「昔は熱を持つ日から逆算し、魔力が噴出する時期を特定していたそうです」

 ひとしきり唸っていたアークロイドだが、自分の中で答えがまとまったのか、おもむろに口を開く。

「つまり、これは魔力がある土地だからこその景色というわけか……」
「そうですね。学者の中でも意見が分かれているようです。レファンヌ公国は魔木があることで不毛の土地といわれますが、この景色は守りたいと思っています」
「同感だな。この眺めは、何度でも見たいと思うだけの価値がある」
「お褒めに与り、恐縮です」

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