転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 約束の時間、シャーリィは時計台の下にいた。白地に蔓草が刺繍がされたワンピースに、フェルト生地のベストを合わせている。レファンヌ公国の代表的な民族衣装だ。
 露店の屋根をぽてぽてと歩く鳩を眺めて暇を潰していると、ぽん、と肩を軽く叩かれる。

「お待たせ!」

 ダリアの後ろには微笑んだカタリナがいた。
 花柄の黄色のワンピースは彼女の清楚な雰囲気に似合っている。一方のダリアは身体の線に沿った細身の青のズボンに、ブラウスの裾を前でリボン結びにしている。

「久しぶりね、カタリナ。元気にしてた?」
「はい。つつがなく過ごしておりましたわ……」

 おっとりとした話し方は通常運転の証しだ。

「カタリナは休みの申請、すぐに通ったの?」
「ええ。わたくしは休日出勤をしたので、今日は振替休日とさせていただきましたわ……」

 カタリナの肩に片手を置いて、横にいたダリアが大げさに首をすくめた。

「私は逆ね。今日を休みにしてもらう代わりに、休日に出ることになったわ」
「そっか。……人手不足だと、休みを取るのにも苦労するわね」
「まあ、国土が狭いからね。他国からの移住者も少ないし、こればっかりはねー」
「でも三人で買い物をするなんて、本当に久しぶりよね」

 感慨深くつぶやくと、そうね、と頷きが返ってくる。
 カタリナは穏やかに微笑んでいる。昔の時間に戻ったみたいな感覚に、つい感傷的になりそうになるのをこらえて、シャーリィはダリアに質問した。

「今日はどこに行くの?」
「隣町に行こうと思うの。馬車は手配しているわ」
「さすが、用意がいいわね」

 シャーリィが感心したように言うと、ダリアはお団子を揺らし、誇らしげに胸を張った。
 昔からダリアは要領がよかった。下調べや準備は欠かさず手配してくれ、おかげで一緒に行動するときはずいぶんと助けられたものだ。
 思えば、最近は仕事に集中しすぎて、遊ぶということを忘れていた気がする。気の置けない友人と話す時間は貴重だ。今日は自分にとっても、いい気晴らしになりそうだ。
 四輪の無蓋馬車に揺られながら、シャーリィは横目でダリアの様子を窺う。彼女はカタリナと職場の話題で盛り上がっていた。
 二人で楽しそうに冗談を言い合いながら、笑い合っている。

(やっぱり、友達っていいなぁ……)

 和気あいあいとした雰囲気に和んでいると、ふと話の矛先が自分に向けられた。

「ねえ、アークロイド皇子ってどんな方なの?」
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