転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 カタリナは頬に手を当てて、憂いの表情だ。久しぶりの家族団らんを邪魔してはいけないと思い、シャーリィが身を引こうとしたときだった。
 ダリアがシャーリィの腕を引き、声を張り上げる。

「ちょっと待って! 私たちも行ってもいい?」
「え? ええ。それは、もちろん構いませんが……」
「カタリナの実家って……ああ!」
「そういうこと。行かない手はないでしょ?」

 目配せされ、シャーリィは納得した。カタリナの実家はバームクーヘンで有名なお店を経営している。観光客もそれ目当てでやってくるほどだ。

(ああ。久しぶりのバームクーヘン……美味しいだろうなあ)

 あのしっとりとした食感と、表面のシャリシャリとした砂糖のシュガーグレーズを思い出し、お腹の虫が今にも鳴きそうだ。
 町の中央に近づくと、赤い屋根が特徴的なお店が目につく。店の横にはバームクーヘンのマークをした看板が吊り下げられている。お昼前だからか、まだ外に列はできていない。
 カタリナがドアを開くと、カランコロンと鈴の音が軽快に響く。

「お兄様。ただいま、戻りました……」

 コック帽を被った青年が振り返り、驚いたように目を丸くした。

「おや、カタリナ。お帰り。お友達も一緒かい?」
「はい。温泉宿で一緒に働いている仲間ですわ……」
「それはそれは。裏に回っておいで。新商品の試食の余りがあるから、よければ食べていくといい」

 その申し出に真っ先に食らいついたのはダリアだった。

「いいんですか?」
「もちろん。さあ、カタリナ。お二人を案内して」
「承知しましたわ……こちらへどうぞ」
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