転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
一度、お店を出てから、店の裏手に回る。裏口は表に比べると、質素な作りのドアだ。
ゆっくりとドアを開けるカタリナの後に続く。土間で靴を脱ぎ、手すりを持ちながら、傾斜がきつい階段を上っていく。
「さあ、どうぞ……」
簡素な机と椅子が並び、カウンターにはガラス瓶に入ったカラフルな飴玉が飾られている。その横には手乗りサイズのクマのぬいぐるみが座っていた。黒と白の色違いで、リボンの色は赤と青だ。女の子と男の子だろうか。
お茶の用意をしにカタリナが奥の台所へ消え、シャーリィはダリアと並んで座る。壁時計の上には白い鳩が羽根を休めている。
(可愛い雑貨が多いわね……む、あれは昨年販売の数量限定だった雪うさぎバッグ……!)
白い雪が舞う黒いバッグを見つけて息を呑んでいると、カタリナがお盆に載せてティーカップを運んできた。
「お待たせしましたわ……」
「ありがとう。……あら、レモンティーね。いい香りだわ」
「お店ではレモンも仕入れていますから……」
ダリアが満足そうにティーカップをソーサーに戻す。それを見て、シャーリィもレモンティーを一口飲んだ。仕入れているのは質のいいレモンだろう。香りがいつもと違う。
カタリナが静かに微笑んでいると、階段を上る足音がする。するとまもなくしてドアが開き、先ほどの青年が小皿に載ったバームクーヘンを持って現れた。
「やあ。今月発売のはちみつ入りバームだよ。遠慮なく食べていってくれ」
「わあ、美味しそう!」
「わざわざ、ありがとうございます。いただきます」
ダリアと手を合わせ、早速フォークで一口サイズに切り分けて口に運ぶ。
ミルフィーユを食べているような錯覚を起こすほど、生地がしっとりとしていて食べやすい。ほのかに甘みも広がり、上をコーティングした砂糖のシャリシャリ感もたまらない。
「美味しいです!」
「はは、満足してもらえたみたいでよかったよ」
カタリナの兄は胸をなで下ろした様子で、目尻にわずかに皺が寄る。けれど、妹と目が合うと、困ったように笑みを浮かべた。
「カタリナ。……お見合い話を断ったそうだね? 父さんがしょげていたよ」
「わたくしは仕事が恋人みたいなものですから。今が楽しいですし、せっかく覚えたんですもの。どなたかに嫁いでしまったら、仕事は続けられなくなってしまいます」
「そうか。それだけ打ち込めるものがあるなら、大事にするといい。父さんには僕から言っておくよ。……お友達も、ゆっくりしていってくださいね」
一礼して、そのまま去ってしまう。その足音が完全に遠のいてから、バームクーヘンを食べていたダリアが口を開いた。
「結婚かぁ……そういえば、アークロイド皇子が来たときは、お妃候補を選びにいらっしゃったんじゃ? って一部が盛り上がっていたわね」
「お妃候補? どういうこと?」
「ツアーにも一切参加せず、館内を見て回っていたでしょう? だから、未来のお妃様を探しているんじゃないかしらって誰かが言い出して……」
「ああ、そういえば。わたくしも何の仕事をしているのか、って尋ねられましたわ……」
カタリナが今思い出したようにつぶやくと、真正面にいたダリアが目を剥いた。
「え。カタリナ、アークロイド皇子とお話ししたの!?」
「はい。聞かれたことを答えただけですが……」
「いいなぁ。うらやましい。私も皇子様といろいろお話ししてみたいなー」
不満げなダリアだったが、カタリナが双子のお客との会話を喋り出すと、目を輝かせて話に聞き入っていた。
(今頃、アークロイド様はどうしていらっしゃるかしら……)
シャーリィは二人の会話に相づちを打ちながら、温泉宿にいるはずの皇子に思いを馳せた。
ゆっくりとドアを開けるカタリナの後に続く。土間で靴を脱ぎ、手すりを持ちながら、傾斜がきつい階段を上っていく。
「さあ、どうぞ……」
簡素な机と椅子が並び、カウンターにはガラス瓶に入ったカラフルな飴玉が飾られている。その横には手乗りサイズのクマのぬいぐるみが座っていた。黒と白の色違いで、リボンの色は赤と青だ。女の子と男の子だろうか。
お茶の用意をしにカタリナが奥の台所へ消え、シャーリィはダリアと並んで座る。壁時計の上には白い鳩が羽根を休めている。
(可愛い雑貨が多いわね……む、あれは昨年販売の数量限定だった雪うさぎバッグ……!)
白い雪が舞う黒いバッグを見つけて息を呑んでいると、カタリナがお盆に載せてティーカップを運んできた。
「お待たせしましたわ……」
「ありがとう。……あら、レモンティーね。いい香りだわ」
「お店ではレモンも仕入れていますから……」
ダリアが満足そうにティーカップをソーサーに戻す。それを見て、シャーリィもレモンティーを一口飲んだ。仕入れているのは質のいいレモンだろう。香りがいつもと違う。
カタリナが静かに微笑んでいると、階段を上る足音がする。するとまもなくしてドアが開き、先ほどの青年が小皿に載ったバームクーヘンを持って現れた。
「やあ。今月発売のはちみつ入りバームだよ。遠慮なく食べていってくれ」
「わあ、美味しそう!」
「わざわざ、ありがとうございます。いただきます」
ダリアと手を合わせ、早速フォークで一口サイズに切り分けて口に運ぶ。
ミルフィーユを食べているような錯覚を起こすほど、生地がしっとりとしていて食べやすい。ほのかに甘みも広がり、上をコーティングした砂糖のシャリシャリ感もたまらない。
「美味しいです!」
「はは、満足してもらえたみたいでよかったよ」
カタリナの兄は胸をなで下ろした様子で、目尻にわずかに皺が寄る。けれど、妹と目が合うと、困ったように笑みを浮かべた。
「カタリナ。……お見合い話を断ったそうだね? 父さんがしょげていたよ」
「わたくしは仕事が恋人みたいなものですから。今が楽しいですし、せっかく覚えたんですもの。どなたかに嫁いでしまったら、仕事は続けられなくなってしまいます」
「そうか。それだけ打ち込めるものがあるなら、大事にするといい。父さんには僕から言っておくよ。……お友達も、ゆっくりしていってくださいね」
一礼して、そのまま去ってしまう。その足音が完全に遠のいてから、バームクーヘンを食べていたダリアが口を開いた。
「結婚かぁ……そういえば、アークロイド皇子が来たときは、お妃候補を選びにいらっしゃったんじゃ? って一部が盛り上がっていたわね」
「お妃候補? どういうこと?」
「ツアーにも一切参加せず、館内を見て回っていたでしょう? だから、未来のお妃様を探しているんじゃないかしらって誰かが言い出して……」
「ああ、そういえば。わたくしも何の仕事をしているのか、って尋ねられましたわ……」
カタリナが今思い出したようにつぶやくと、真正面にいたダリアが目を剥いた。
「え。カタリナ、アークロイド皇子とお話ししたの!?」
「はい。聞かれたことを答えただけですが……」
「いいなぁ。うらやましい。私も皇子様といろいろお話ししてみたいなー」
不満げなダリアだったが、カタリナが双子のお客との会話を喋り出すと、目を輝かせて話に聞き入っていた。
(今頃、アークロイド様はどうしていらっしゃるかしら……)
シャーリィは二人の会話に相づちを打ちながら、温泉宿にいるはずの皇子に思いを馳せた。