転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 ぱちりと目を開け、シャーリィは飛び起きた。室内用のスリッパを履き、ずんずんと窓のほうへ向かう。
 オレンジだったミニトマトは一週間前、真っ赤になった。
 前世の記憶から、この時期の食べ頃はそろそろだと調べはついている。さわり心地も、外の皮がほどよく軟らかくなっていたし、大丈夫だろう。

「つまりは、今日が食べ頃よ……!」

 カーテンを両手で開き、カラカラと窓を開ける。愛するミニトマトの鉢に目を移したところで、シャーリィは硬直した。
 見間違いかと目をこする。そして、もう一度、鉢に根を張る野菜を見つめる。
 しかしながら、悪夢のような現実は消えない。
 目の前には、赤い実が穴だらけになった惨状が広がっている。口から魂が抜け落ちたようにバルコニーに膝をつくと、黒い影が視界に入る。
 焦点の合っていない目で瞬くと、カラスがちょんちょんと鉢のそばを歩いているのに気づく。けれど、あっと思ったときには、無事だった赤い実をくわえて空へと飛び立っていた。

(わ、私のミニトマトが……!)

 残ったのは食い荒らされたミニトマトだけだ。
 朝起きたときは、初めての収穫にわくわくが抑えきれなかった。しかし、現実はどこまでも残酷だ。唯一、残っていたトマトさえも守れなかった。
 自分の無力さを痛感しても、傷は癒えない。むしろ、広がるばかりだった。
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