転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 別館の清掃作業に勤しんでいると、聞き慣れた声がかかる。

「あれから、鳥避けの対策はどうなった?」

 雑巾を持った格好のまま振り返ると、館内着に身を包んだアークロイドとルースが階段から下りてくるところだった。
 シャーリィは雑巾を握りしめ、熱く語った。

「ネットやイラスト、あと光るものを置いたのがよかったみたいで、次の実が無事に大きくなっています。これもアークロイド様のおかげです!」
「そうか。今度は食べられるといいな」
「はい! 熟した頃にお持ちしますね」
「ふっ、楽しみにしている」

 一度は絶望したバルコニー菜園だったが、幸い、次の花がすぐに咲いてくれた。
 毎日声かけをしながら、シャーリィが丹精込めて水やりをした結果、順調に実は大きくなっている。週に一度の液肥やりもこなしているし、葉もみずみずしい緑色だ。

(ふふん。ネットで守られているから、鳥に食べられる心配もないし、今度こそ新鮮な野菜を食べられるはずよ!)

 気温も高くなって、実が大きくなるまでの日数も短くなった。このぶんなら、前回より早めに収穫できるだろう。期待は否応なしに膨らむ。
 油断すると頬が緩んでしまいそうになるのをこらえ、シャーリィは階段の手すりを丹念に磨いた。
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