転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
水洗いをしたミニトマトを載せたザルを手に、呼び鈴を鳴らす。
「失礼します。シャーリィです」
声を張り上げると、しばらくしてドアがゆっくり開かれる。
「……入ってよいとの仰せだ」
「おはようございます。ルース様」
「ああ、おはよう」
最初会ったときは全員が敵とでもいうように警戒心が強かった彼だったが、刺々しい雰囲気もずいぶん和らいできたように思う。
窓際の席で読書をしていたアークロイドの元へ向かうと、読んでいたページにしおりを挟んで文庫を閉じる。そして、彼の視線が自分の手元に向けられたのを感じ、シャーリィはザルをずずずいっと前に出した。
「見てください、アークロイド様! やっと実がつきました……!」
「……朝から元気だな」
「大量なので、房ごと収穫してきました。味見もしたので、ぜひ召し上がってください!」
竹ザルに載ったミニトマトを見せると、アークロイドが覗き込むようにして顔を近づける。それから顎に手を当て、感心したような声を出す。
「確かにたくさんあるな。一度にこんなにできるものなのか」
「夏だから、生長が早いのかもしれませんね」
「なるほどな……」
「水洗いはしています。どうぞ、パクッと食べてみてください」
「毒味は私が」
どこから出てきたのかと思うような俊敏さでルースが顔を出し、アークロイドと目配せする。アークロイドはそっと息をつき、顔を手で覆う。
「ルース。失礼だぞ」
「ですが、宮殿で栽培されたものが安全であるかは、私どもにはわかりません。御身のためです」
その言葉で折れたのか、アークロイドが無言でミニトマトをルースに渡す。
ルースはそれをジッと見つめたかと思うと、一口で食べた。長いような短い時間を経て、ルースが口を開く。
「アーク様。大丈夫のようです」
「では、いただこう」
残りの房からミニトマトをヘタごと千切り、アークロイドが大きく口を開けた。
「ん……これは思ったより甘いな。そういう品種か?」
期待した反応が返ってきて、シャーリィは内心ガッツポーズをした。だけど、その嬉しさをおくびにも出さず、すまして答える。
「調べましたが、これは普通の品種でした。おそらく、これが本来の野菜の甘みです。不思議ですよね」
「へえ……ルース、知っていたか?」
主の質問に、壁際で彫刻のように静止していたルースが口だけを動かした。
「水を少なくしたら、そのぶん、実が甘くなるらしいです。あとは、採れたて野菜ならではの美味しさではないでしょうか」
「……ふむ、これが新鮮であるということか」
「癖になりますよね」
「そうだな。悪くない」
アークロイドは肘掛けに頬杖をつき、大事そうにザルを抱え込むシャーリィを見上げた。
「それで、残りのトマトはどうするんだ?」
「……どうしましょうか?」
「その反応は考えていなかったな。……せっかくの採れたての野菜だ。サラダにするのもいいんじゃないのか?」
「ナイスアイデアです! では、昼食時のサラダに使ってもらうように料理長に頼んできますねっ」
善は急げだ。シャーリィはくるりと踵を返し、本館一階へ向かう。
昼食の下処理をしていた料理長に事情を説明すると、すぐに快諾してくれ、シャーリィとアークロイドのサラダに使ってくれることになった。
仕事を終わらせて正午に食堂に行くと、入り口のところでアークロイドと鉢合わせた。それぞれ好きなものを注文し、サラダとともに受け取る。
レタスときゅうりの中央に赤い実が添えられており、きらきらとした水滴がついている。
「いただきます!」
フォークで突き刺し、パクリと頬張る。
料理長がしばらく冷やしたミニトマトは朝食べたものより、ずっと美味しかった。
「失礼します。シャーリィです」
声を張り上げると、しばらくしてドアがゆっくり開かれる。
「……入ってよいとの仰せだ」
「おはようございます。ルース様」
「ああ、おはよう」
最初会ったときは全員が敵とでもいうように警戒心が強かった彼だったが、刺々しい雰囲気もずいぶん和らいできたように思う。
窓際の席で読書をしていたアークロイドの元へ向かうと、読んでいたページにしおりを挟んで文庫を閉じる。そして、彼の視線が自分の手元に向けられたのを感じ、シャーリィはザルをずずずいっと前に出した。
「見てください、アークロイド様! やっと実がつきました……!」
「……朝から元気だな」
「大量なので、房ごと収穫してきました。味見もしたので、ぜひ召し上がってください!」
竹ザルに載ったミニトマトを見せると、アークロイドが覗き込むようにして顔を近づける。それから顎に手を当て、感心したような声を出す。
「確かにたくさんあるな。一度にこんなにできるものなのか」
「夏だから、生長が早いのかもしれませんね」
「なるほどな……」
「水洗いはしています。どうぞ、パクッと食べてみてください」
「毒味は私が」
どこから出てきたのかと思うような俊敏さでルースが顔を出し、アークロイドと目配せする。アークロイドはそっと息をつき、顔を手で覆う。
「ルース。失礼だぞ」
「ですが、宮殿で栽培されたものが安全であるかは、私どもにはわかりません。御身のためです」
その言葉で折れたのか、アークロイドが無言でミニトマトをルースに渡す。
ルースはそれをジッと見つめたかと思うと、一口で食べた。長いような短い時間を経て、ルースが口を開く。
「アーク様。大丈夫のようです」
「では、いただこう」
残りの房からミニトマトをヘタごと千切り、アークロイドが大きく口を開けた。
「ん……これは思ったより甘いな。そういう品種か?」
期待した反応が返ってきて、シャーリィは内心ガッツポーズをした。だけど、その嬉しさをおくびにも出さず、すまして答える。
「調べましたが、これは普通の品種でした。おそらく、これが本来の野菜の甘みです。不思議ですよね」
「へえ……ルース、知っていたか?」
主の質問に、壁際で彫刻のように静止していたルースが口だけを動かした。
「水を少なくしたら、そのぶん、実が甘くなるらしいです。あとは、採れたて野菜ならではの美味しさではないでしょうか」
「……ふむ、これが新鮮であるということか」
「癖になりますよね」
「そうだな。悪くない」
アークロイドは肘掛けに頬杖をつき、大事そうにザルを抱え込むシャーリィを見上げた。
「それで、残りのトマトはどうするんだ?」
「……どうしましょうか?」
「その反応は考えていなかったな。……せっかくの採れたての野菜だ。サラダにするのもいいんじゃないのか?」
「ナイスアイデアです! では、昼食時のサラダに使ってもらうように料理長に頼んできますねっ」
善は急げだ。シャーリィはくるりと踵を返し、本館一階へ向かう。
昼食の下処理をしていた料理長に事情を説明すると、すぐに快諾してくれ、シャーリィとアークロイドのサラダに使ってくれることになった。
仕事を終わらせて正午に食堂に行くと、入り口のところでアークロイドと鉢合わせた。それぞれ好きなものを注文し、サラダとともに受け取る。
レタスときゅうりの中央に赤い実が添えられており、きらきらとした水滴がついている。
「いただきます!」
フォークで突き刺し、パクリと頬張る。
料理長がしばらく冷やしたミニトマトは朝食べたものより、ずっと美味しかった。