転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
 会話が途切れたタイミングで、馬の蹄の音が近づいてくる。
 大通りの先を見つめると、一台の馬車がこちらに向かってきているところだった。シャーリィは腕時計を見て、到着予定時間との差異を確認する。

(ほとんど時間通りね……)

 貴族用の豪奢な馬車から降りてきたのは、金髪の少年。ふわふわの猫っ毛に、好奇心旺盛なスカイブルーの瞳がきらきらと輝く。背はミュゼよりも低く、シャーリィの少し上といったところだ。顔立ちも整っており、小顔も相まって幼く見える。

「オレール様。お待ちしておりました」

 シャーリィが腰を曲げて歓迎の意を示すと、オレールが駆け寄る。

「あなたにお目にかかれるのを楽しみにしていました。シャーリィ姫、こちらをどうぞ」

 恭しく差し出されたのは、包装された一輪の花だった。茎の部分に白のリボンが巻かれている。

「まあ、今月は小ぶりのひまわりなんですね。いつもありがとうございます」
「これが僕の気持ちです」

 シャーリィは両手で受け取り、黄色い花びらの部分を指先でさわる。

「ふふ。でも毎回プレゼントをご用意いただかなくても、ツアーにご参加いただけるだけで充分嬉しいですよ?」
「いえ、それだけでは僕の気持ちは伝わりませんから。それにここ数ヶ月は家の用事で来られませんでしたから、今回はのんびり滞在するつもりです」
「まずは温泉宿で、旅の疲れを癒やしてきてくださいね」
「はい!」
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