もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「いいんだよ。ヴィクトルが魔獣だってことは街でも知っているヤツは知っているから、門番も知っているだろうさ。今は緊急事態なんだ。私が一緒だったことで、察してくれているよ。それに人が乗ってりゃ警戒もされないさ」
「そっか……。おばあさんは、魔獣でも普通に接してくれていますもんね」
何度か薬草と薬を売りにおばあさんの店へ通った後、自分が魔獣だということは打ち明けている。その時も笑ってそうかい、ルリィの耳も尻尾もきれいな毛並みだから、さぞきれいな魔獣なんだろうね、と言っただけだった。
その言葉がうれしくて、泊まって見習いにならないか、という誘いにはすぐに頷いたのだ。
「それこそ考えるまでもないよ。言葉を理解して話してんだ。ならどんな姿をしてたって関係ないよ」
「そうですよねっ!」
その言葉がまたうれしくて、ついつい鬣を握っていない方の手でヴィクトルさんの背中を撫でまくってしまった。もふもふは心の安定剤だから仕方がないんだよ、セフィー!
魔獣は人に差別されている訳ではないが街へ出て来る魔獣もあまりいないので、実際に接した上で人と変わりない対応をとってくれる人ばかりではないとヴィクトルさんから旅の話で聞いていた。
「ほら、そんなことを言っている間にもう見えたよ!あれがブレンの村さ」
そう言われて身を乗り出すと、耕された広大な農地の中に木の塀に囲まれた村が見えた。
村の門には、いつもなら誰かは立っているそうだが見当たらず、村が緊急事態なことを示しているようだった。
もう村からもヴィクトルさんが見えている距離なのに誰も出て来ないので、おばあさんにせっつかれて村の門の前で私たちを下ろし、見えない場所へ人化しに行った。
「こりゃあ、思ったよりも状況は良くないのかもしれないね……。とりあえず村長の家へ行くよ」
こんな状況下でなかったら見て回ってみたい長閑な農村風景の村の中を、ネネちゃんの安否を確かめたい気持ちを堪えながら小走りでどんどんと進むおばあさんについて行く。
門からは太い道がまっすぐ敷かれていて、しばらく進むと広場があった。その広場に面した村長の家の扉の前まで行くと、おばあさんは勢いよく扉を叩いた。
「村長、いるんだろ?ノンヌだよ!薬をもって来たから開けておくれ!」
「お、おおっ!ノンヌさんが来てくれたのかっ!た、助かった!」
ドンドンと扉を叩く音と、おばあさんの叫び声がしんと静まり返った村に響くと、すぐに扉の中からドタバタと走る音と返事が返って来た。
走ってきた勢いのまま扉が開かれて中から出て来たのは、おばあさんよりは幾分若く見える初老の男性だった。この人が村長さんなのだろう。
「いいからさっさと今の状況をお話し!」
「あ、ああ。ここ何日かで何人もひどくせき込むようになってな。村中で一昨日から警戒していたら、昨夜、一人が高熱を出したから慌てて村の集会所に具合が悪い人を集めたんだ。今朝村から街へ使いを出して、今は世話をする人以外は家で待機させているんだが、ノンヌさんはそれで来てくれたのか?」
高熱!やっぱり木枯らし病?でも、昨夜なら、まだ間に合う!
「いいや、別口からだよ。村から野菜の納品がないって聞いてね。さあ、じゃあ村の集会所へ行くよ!全員診終わったら、念のため他の人も診るから集めておくれ」
「ああ、ありがたい。ありがとう、ノンヌさん」
今度は三人で小走りに村長宅の広場の逆側にある大きな集会所の建物へ向かって歩き出すと、いつの間にか後ろにヴィクトルさんが合流していた。
ネネちゃん、どうか無事でいてね……!