もふもふになっちゃった私ののんびり生活
集会所の中は、空気が淀んでいるようだった。
体育館くらいの広さの集会所には、板張りの床の上に毛布だけ敷いてその上に寝ている人たちや、壁に寄りかかって咳き込む人が二十人近くいた。
これだけ具合の悪い人がいたら、畑にも出ないで家に待機になるのも分かるよね……。街だと実際はどのくらい掛かっている人がいるのかな。もしかしたら思っていたより多いのかもしれない……。
中へ入るとすぐさまおばあさんは高熱を出した人の元へ向かい、診察を始めた。
この世界にも医者はいるが、基本的に医者は怪我などの外傷で、薬師が病気を診るのだ。
おばあさんも私も、それに村長もこの集会所へ入る前に消毒液で手を洗い、しっかりと浄化を掛けた布で口を覆った。ヴィクトルさんは布で口を覆いはしたが入り口で待機だ。
村長さんは目を白黒して驚いていたけど、そこはおばあさんが一括して有無を言わせずにやらせていた。
これで防げればいいけど……。
とりえあずおばあさんの脇に控え、薬の確認をしながらあちこち集会所の中に視線をやりながらネネちゃんの姿を探す。
良かった!ネネちゃんはここにはいないみたい。でも、小さな子供もかかっていたなんて……。
ネネちゃんの姿は無かったが、ひどく咳き込んでいるまだ十歳もいかないような子供や寝ている人の中にも子供の姿もあった。
そんな姿を見ると、薬を早く飲ませないと!と急き立てられる心地がするが、おばあさんが診てからじゃないと、適切な薬を判断することはできないのだ。
「あのっ!すいません、子供の熱がさっきからどんどん上がっているようなんですっ!お願いです!先に薬をもらうことはできませんか?」
「ああ、もうこの人が終わるから次に行くよ!ちょっとまっててくれ!」
おばあさんの脇にいる私の方も、年若い母親だろう女性のすがるような視線で見られて、この場所に居るのがとても気まずくなってしまった。
私はおばあさんに弟子入りはしたが教わったのは調合だけで、まだ数種類の薬の調合を任されるようになっただけだ。それに薬師としての修行を乞うてはいない。
そうか、正式に薬師になるなら、こうして病気の人を診ることもできるようにならないといけないんだ……。でも、今のところは薬師になって街に定住して薬屋をやるつもりはないんだよね。
どうしようかと思っていると。
「ルリィ!ここはいいから、薬を置いて、飲み水と処置をするのに使う水を浄化を掛けて持って来ておくれ!」
「は、はいっ!」
「じゃあ、私の家の裏口に盥があるから、それを使ってくれ」
「ありがとうございます!では、行ってきます!」
おばあさんの言葉にホッとしながら立ち上がり、集会所から出ると、扉の脇にいたヴィクトルさんに声を掛けられた。
「どうしたんだ?」
「おばあさんにお水を汲んで来てくれって言われて。ちょっと行って来ますね」
そう言いながら、苦笑がもれてしまった。
薬の調合は魔力を使いながら処理をするので、おばあさんは十分に魔力はあるし魔力操作も私と比べものにならない程に堪能だ。だからおばあさんも私も盥くらいならいくらでも魔法で出せる。
おばあさんに気を使わせちゃったな……。
「ルリィは井戸の場所を知らないだろう?それに重いから俺が持とう」
そんなことは当然ヴィクトルさんも気づいただろうに、そのことを追及することなく、ただそう言ってくれた。その優しさが今はとてもありがたい。
じゃあ、とそのまま連れだってとりあえず村長の家へ広場を横断していると。