もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ルリィ!そこで結界を張って、二人で大人しく座っていてくれ!……怖いものを見せることになるかもしれないから、中からも外が見えないように結界を張れたらその方がいい」
そのヴィクトルさんの鋭い声に一瞬思考が止まり掛けたが、ヴィクトルさんの手に大剣が握られているのを見て、反射的に茫然としているアイリちゃんの手をひっぱってその場でしゃがむと、半径ニメートルの結界を張った。
あっ、無意識に張ったから、いつもの結界にしちゃった。周囲から見えなくなった筈だから安全だけど、怖いものを見るって……?
「なんだぁ?小さいガキが二人もいるからついてるな!と思ったのに、ガキの姿が見えなくなったぞ!おい、どうするんだっ!」
「いや、でも、これだけの人数を用意したんだ。人質をとれなくてもいくら神銀級が強いからと言って、なんとかなるんじゃないか?それにガキだって消える訳ないんだから、見えないが結界でも張ってそこにいるのは間違いないだろうよ」
その聞こえて来た声に、アイリちゃんと話すのに夢中になっている内に、いつの間にか囲まれていたことにやっと気づいた。
ええっ!さっきまで、人の姿なんて討伐ギルドの依頼を受けている人や戻る人くらい……。って、もしかしてそう偽装していたのっ!!
「ル、ルリィちゃん、何なの?何があったの?怖いよ……」
「アイリちゃん。結界を張ったから、ここで大人しくしていたら大丈夫だからね。結界の中には、絶対に怖い人は入って来れないから。それにヴィクトルさんは強いから!」
震えるアイリちゃんを抱きしめながら目の前で庇うヴィクトルさんの背を見て、心が落ち着いて行くのを感じる。
いつの間にか私、ヴィクトルさんの背中に守られていれば絶対に安全だって信じているんだね。……アイリちゃんに怖い光景を見せたくないし、私たちから見えない方がヴィクトルさんも動きやすいよね。防音は無理そうだけど、光学迷彩のフィルターを両側から二枚重ねるイメージで……。できた!
「ヴィクトルさん、できました!こちらからは全く見えません」
「わかった。じゃあ、片付けてくるからそこで少しだけ待っていてくれ」
そう言うと、ヴィクトルさんが無造作に歩いて行く足音がする。
この結界の強度は、以前ヴィクトルさんの大剣でも壊れないことを確認したから信用してくれているのだ。
「おっ、今、ガキの声が聞こえたな。やっぱりそこにいるのは間違いねぇ。おい!そこの神銀級のヴィクトルさんよ!木枯らし病の薬の薬草のほとんどをお前が納品したことは分かっているんだよ!たっぷり稼いだだろう?俺達にその稼ぎを分けてくれよ!俺達は木枯らし病のお陰で干上がっているんだ。いっつもひっついているガキを、お前が大切にしているのは分かってんだ。なあ、怖がらせたくはないだろう?」
「……ルリィに手を出す気だったのか?その命、いらないらしいな?」
ぞっとするような低い声で呟かれたヴィクトルさんの声を耳が拾ってしまって、襲撃者らしい人達の声を聞いた時よりも背筋が震えた。
それからはあっという間だった。あちこちで甲高い金属音や叫び声、打撃音などが響いたと思ったら、すぐに静まり返り何の物音もしなくなっていた。