もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「終わったぞ。警備の者を呼んで来るから、そのままで待っていてくれ。すぐに戻って来る」
「えっ、ちょっと、ヴィクトルさんっ?」

 慌てて気配を探ると、周囲を取り囲んでいる気配は消えてはいなかったが全く動く気配はなく、ヴィクトルさんの気配もあっという間に街へと遠ざかって行った。

 人の姿でも、獣姿の時と同じ速さで走れるんだ。どうりで私がいくら必死で駆けたって息も乱さない訳だよね。

「ね、ねえ、ルリィちゃん。何があったの?何の音も聞こえなくなったけど、もう大丈夫なの?何にも見えないけど……」
「あ、アイリちゃん。うん、もう大丈夫だよ!ヴィクトルさんがなんか悪い人をやっつけてくれたみたい」

 でも、さっき言ってた話しだと、私が大量に薬草を持ち込んでいたから、ヴィクトルさんが目をつけられちゃったってことだよね。しかもずっと私が一緒にいることも知っていたみたいだし。
 ……やっぱり物事は一つの面だけみて判断しないで、様々な角度から見て考えないとこういうことになるんだね。

 ちょっとへこんで耳がペタンと寝て尻尾がしょんぼりと下がる。その気配にセフィーが慰めてくれるけど、これは私の責任だ。しっかり受け止めて考えよう。

「今ヴィクトルさんが街に警備の人を呼びに行っているから、もうちょっとだけこのままこうしていてね。……ごめんね、アイリちゃん。なんだか面倒事に巻き込んじゃったみたいで」
「えっ!なんで、ルリィちゃんが謝ることじゃないよ!私も、街の外へ出たらこういうこともあるってちゃんと分かってなかったからビックリして怯えちゃったけど、でも、それはルリィちゃんのせいじゃないから!」

 しっかりと目を見ながらそう言ってくれたアイリちゃんの手は、それでもまだ震えている。街に危険がない訳ではないが、これだけ怖い思いなどしたことなど今までなかったに違いない。

「うん、うん。ありがとう、アイリちゃん。アイリちゃんが友達でいてくれて、私、とってもうれしいの」
「ルリィちゃん……。うん、私も!私もルリィちゃんと友達になれて、色々知らなかったこともたくさん知れたし、とっても感謝しているの」

 ふふふ、と笑い合った時には、アイリちゃんの手の震えが収まっていた。


 ヴィクトルさんはその後すぐに戻って来たが、警備の人達が到着して襲撃者たちを連行するまでに時間がかかり、その間も結界の中から出ないまま警備の人に話を聞かれたりした。

 そうして全てが終わって街へ戻った時には、閉門ギリギリの時間になっていた。
 最後まで私とアイリちゃんは結界の中に居たので襲撃者の姿を見ていないから、結局襲撃者の人数も知らないままだ。ヴィクトルさんに徹底して守られていた。

 まあ、アイリちゃんにこれ以上怖い思いをして欲しくなかったから良かったけど、本当にヴィクトルさんは過保護だよね……。

 警備の人を待っている間にヴィクトルさんに聞くと、やはり襲撃者には気づいていたが、今後も付きまとわれたり個別に襲撃される危険性を考えてあの場で撃退した方がいい、と判断して警戒していたそうだ。

 まったく私は気づかなかったよね!でも後々街でアイリちゃんを誘拐されたり人質にされるよりも、あの場で全員捕まえてしまった方が良かったのは確かだ。
 だからそのことも合わせてアイリちゃんに謝ったけど、アイリちゃんもその家族も怪我も何もしていないから気にしないで、と言ってくれた。

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