もふもふになっちゃった私ののんびり生活

 襲撃から更に一か月が経ち、木枯らし病の流行もすっかり収まり街は元通りになった。そして今日はあの日に約束したお菓子屋さんに食べに行く日だ。

「アイリちゃん!お待たせ!」
「ルリィちゃん!じゃあ、行こう!私も一度だけしか食べたことないから、楽しみにしていたんだ!」

 今日行く店は、大通り沿いの高級菓子店で、お目当てはアイリちゃんが普段は高くてなかなか食べられないけどとっても美味しいと勧めてくれたチーズを使ったチーズケーキだ!!

 魔物という外敵がいるから酪農は大変で、乳製品はこの世界では高級品なんだよね……。鮮度の問題もあるし。

 幸いティーズブロウの街からほど近い場所で牧畜が盛んな村があり、そこからバターやチーズが運ばれて来ていたが、売っている店は大通りの高級店ばかりで敷居が高く、一度も買ったことは無かったのだ。現地にいけば生クリームもあるそうだから、一度は行ってみたい!

 大通りのお店に入ったことあるのはお米を探していた時くらいなんだよね。ヴィクトルさんはいつでも連れて行く、って言ってくれるけど、なんか入りづらくて……。お金はあるんだけどね。

 おばあさんに弟子入りしてから毎月おこずかいを貰っているし、街へ来る毎に薬草を買い取って貰っている。木枯らし病の薬草も流行の対策で普段より二割安い金額だそうだが全て買い取りとなったから、ヴィクトルさんに半分押し付けたけど結構な金額になったのだ。

 今日はヴィクトルさんはちょっと離れた場所をついて来ている。店にも入らず店の外で待ってくれるらしい。あのこと以来、やっと実現したアイリちゃんとのお出かけなので気を使ってくれているのだ。

 あの襲撃の後、お礼を言った時に私に何かして欲しいことはないか、と聞いてみた。セフィーに「そんなこと言ったら何を要求されるか分かりませんよ!」と頭の中でまくし立てられたが、ヴィクトルさんの要望は、「……俺だけ撫で回されたから、せめてルリィを抱っこしてもいいか?」だった。

 あの時は子供抱っこ!とか思ったけど、獣姿のことだったんだよね。でも、それなら、と街からの帰り道に「どうぞ」と言ってみたんだけど、なんだかすっごく気恥ずかしかったな……。

 ヴィクトルさんは、撫でまわさない、と真顔で誓ってからそっと抱き上げたんだけど、私はまだ体長一メートルもないからすっぽりヴィクトルさんの腕の中に包まれて、腕が添えられているだけでもぞもぞしたのだ。

 あれからもヴィクトルさんはたまに撫でていい、って言ってくれてもふもふさせてくれているけど、それでちょっとだけ反省したんだよね。まあ、もふもふするのを止められるかと言ったら無理だったけど!

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