もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ここだよ!ちょっと私達には入りずらいけど、今日はおめかししてきたし!入ろう、ルリィちゃん!」
「う、うん。私、変じゃないよね?」
今日着ているのは、今まで着る機会も無かった神様が用意してくれた服の中でも一番ひらひらしていたブラウスとワンピースだ。
ワンピースは薄いパステルブルーのウエストの高い位置をリボンで絞るタイプで、その中に白いブラウスを着ている。
どう?と店の前でくるりと周って、スカートのひらひらしたレースと一緒に銀色に輝く艶々な尻尾も一緒になびかせた。
「うんうん、かわいいよ!ホラ、ヴィクトルさんが鼻押さえちゃうから中に入ろう!」
さあ!と手を引かれてそのまま大きな窓のある喫茶店のようなおしゃれな外観の店に入りながらちらりと後ろを見ると、確かにヴィクトルさんが鼻を押さえていた。
胸元のネックレスから漂う真っ黒な気配に気が付かないふりをして視線を店内へ向けると、ショーケースのような物は無かったが、優美なラインを描く脚の椅子とテーブルの上には白いテーブルクロスが掛けられていた。
ドキドキしながら店員に案内されるままに席に座り、二人でチーズケーキと果汁を頼む。
店内の他の客が、いかにも裕福そうな客層でちらちら落ち着きなく見回していると、チーズケーキと果汁が届いた。
「さあ、食べよう!美味しそうだね!」
「うん、とっても美味しそう!」
一口チーズケーキを食べると、忘れかけていたチーズと生クリームの濃厚な味わいとほんのりと砂糖の甘さが口いっぱいに広がった。
思わずアイリちゃんと顔を合わせて「んんーーーーっ!!」と目を丸くしながら言ってしまった程だ。
それからは一口ずつ味わいながら、夢中で食べていた。
そうしてチーズケーキを食べ終わり、ゆっくりと果汁を味わいながら飲んでいると。
「ねえ、ルリィちゃん。私、宿のお客さん達から話を聞く街の外にずっと憧れていたんだ。私ももう十三歳でしょ?十五歳になる前に、少しだけこの街から出る仕事に憧れてたんだけど、この間のことで外に出るのは無理だってわかったし。私にはやっぱり宿屋が似合っているみたい」
アイリちゃん……。
アイリちゃんはあの時、楽しそうに草原を歩き、どこまでも広がる空と緑を見回しては笑顔を浮かべていた。
それが結果的にあんな結末になってしまったけど、それでも外へ出られたことを嬉しかったと言ってくれていた。でも、常にああいう危険が付きまとう外を自由に旅するには自分には無理だと諦めていたんだね。