もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ヴィクトルさん、今日はちょっと道を外れて草原を歩きませんか?話があるんです」
「ああ。何か俺に聞きたいことがあるなら、何でも聞いてくれ」

 アイリちゃんとチーズケーキを食べた翌日。街の門を出たところでヴィクトルさんに切り出した。
 ヴィクトルさんと出会ってから一年半くらい経ち、ヴィクトルさんのことは最近ではかなり頼りすぎているくらいには信用している。でも、私の意識に「番」、という感覚は今でも全くない。

 だから私が自分の将来のことを考える前に、私を「番」だと認識しているヴィクトルさんと向き合う為にも、話をしなければ前に踏み出せないと思ったのだ。

「ヴィクトルさん。番は魔力の相性がいい相手で、生涯に一人とは限らないって聞きましたけど、相手を自分の番だと認識したら、もうその相手以外考えられなくなる、とかそういう感じなんですか?」

 これを自分から聞くのもどうかと思うし、出会ってすぐに尋ねるには怖くて無理だった質問だ。
 小説や漫画なんかの設定であったように、番と出会った瞬間すぐに溺愛とか、物語なら読むのは好きだったけど自分の立場になると私自身のことをないがしろにされている気がしてしまう。

 それだと、私という人格がどうでも関係ない、といわんばかりよね。小説を読んでた時は絶対的に心変わりしない愛、って憧れたんだけどね。

「……最初にルリィと出会った時は、番の甘い匂いに酔った状態になっていたと思う。あの時期は、番を長年探し続けすぎてちょっとどうにかなっていたんだ。しかも微かな匂いだけで姿を確認できなくて、本当に存在しているのかと一年以上も探していて、いてもたってもいられない気持ちだったしな。けど、ルリィに会ってからは逆に落ち着いたと思うが」

 ああー……。ヴィクトルさんに最初に会った時、街の入り口で叫んでいたもんね。今思えばヴィクトルさんはああいうことをするような性格ではないよね。まあ、ストーカー気質はあると思うけど。

「じゃあ、実際に私に会ってどうでしたか?ずっと番を探していた時、こういう番だったらいいな、とか想像しませんでしたか?その番像と比べると、私は大分違うんじゃないかと思うんですが」

 そう、特にこんな年端もいかない子供だったこととかね!なんていったって少しは背が伸びたのに、今でも身長差が五十センチ以上はあるし!

「……そうだな。旅を始めて最初の十年くらいは、街ですれ違う女性を見ながら色々想像していたかもしれない。でも、二十年、三十年と過ぎていくと、見つからない、ということだけで頭がいっぱいになっていって、ルリィと出会った頃はもう番に出会うことだけしか頭になかったな」

 そうだった。ヴィクトルさん、見た目二十代だから忘れがちだけど、百年以上番を探して旅していたんだった。百年かぁ……。全く想像もつかないな。
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