もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「じゃあ、理想の女性像、とかはどうですか?それならあったんじゃないですか?」
「いや、ルリィはルリィだ。確かに出会いは俺が求め続けていた番としてだったが、俺は誰かとルリィを比べるようなことはしていない」
うーん。もしかして私の前世の小説の先入観があるから、こんがらがってしまっているのかな?
「もしかしてルリィが一番聞きたいことは、俺がルリィのことをどう思っているか、ってことか?俺が盲目的に番だからとルリィの人格がどうでもいいと思っていると?」
そう、まさにそれ!だけど、自分で言うのも……。
そう思っていたのが顔に出たのか、そのまま一つ頷くとヴィクトルさんが口を開いた。
「そうだな。番の傍は、甘い匂いがして魔力が安定するし居心地がいい。だから離れがたいが、でも、それは魅了にかかっている訳でもないし、強制力がある訳ではないぞ。番は魔力の相性がいい相手だから同性だったり性格が合わない場合もあるし、番を見つけても結婚しない人もいる。番は生涯でただ一人という訳でもないしな」
ああ、生理的にダメな人もいるよね。これはもう、どうしようもないからお互い近づかないでいるのが一番だと私も思っている。そういう相手なら番といえど別れを選ぶ人はいる、ということか。
「じゃあ、その人がどういう性格でも、番だからといって盲目的に求める衝動がある、とかいう訳ではない、と?」
「そうだ。それはドラゴン種だけだな。番相手じゃないと絶対に子供を作れないから、番に対しては出会った瞬間から盲目的に求めるらしいぞ。俺の生まれた処のすぐ傍に棲んでいたドラゴンに聞いたから間違いない筈だ」
おお、想像上で書いた小説の設定がそのままな感じだ!そう思うと、ドラゴンなんて怖くて近寄りたくはないけど、見てみたくなって来たかも。って、今はそうじゃなくて!
「ルリィと顔を合わせて衝動が落ち着いたら、ルリィがまだ幼い幼獣だったことに戸惑いはあった。けど、年齢の差はお互い魔獣で人化もできるしその内埋まる。だが、ルリィにとっては番として出会うには早過ぎたというのは分かっているし、俺がついて回るのもどうかと最初は悩んだがな」
ああ、ずっと次の約束を求めることしかしなかったヴィクトルさんでも、やっぱり悩んでいたんだね。まあ、そうだよね。いくら番だって、見るからに小さな女の子なんだもの。
「でも、ヴィクトルさんは私のことを何も聞かずに見守ることにしたんですね」
「ああ。何度かルリィと会う内に、しっかりした芯を心に持っていると気づいて、見た目程幼い少女ではないと感じたしな。……それでも、本当はルリィが成獣になって、番として俺と向き合えるまで遠くで見守った方がいいのかもしれないが」
ああ、この人は、きちんと私自身を見て、向き合おうとしてくれていたんだ。
最初は隣にいると、どうしたらいいか分からないで戸惑っていたのに、いつの間にかそっと寄り添って、常に私のことを尊重してくれていた。それが番の強制力からなのかが分からなくて、でも確かめるのも怖くてそのままヴィクトルさんと向き合わないで今日まで来てしまった。
「でも、俺はルリィの成長を隣で見ていたいんだ。だからルリィが今、俺のことを番だと、心情的に異性として見れなくてもかまわない。ただ、俺がすぐ近くでルリィのことを見守ることを許して欲しい、それだけだ。……成獣した時に、俺のことを番として選べなくても、その時は諦める。とキッパリ言えないかもしれないが、その時は努力はすると約束する」
いつの間に片膝をついて、目線を合わせていたヴィクトルさんの強い想いを秘めた目が、拒絶してくれるなと訴えかけて来るようだった。