もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 大木の根の下の穴倉を寝床にしてから、気づくと何か月か過ぎていた。

 たまに探検、それ以外は食べては寝る生活で、疲れ果てていた精神も少しづつ癒えて来ているように思う。

 最初の頃は、寝ていても『仕事に行かなきゃ!』とふっと飛び起きる、ということが頻繁にあった。
 その度に今の自分のもふもふした身体を確認し、ふさふさの尻尾を甘噛みしながら気分を落ち着かせていた。

 ただ、悪夢を見なくても、暗い穴の中でぽつんと一人で丸まって眠っていると、やはり誰かのぬくもりが恋しくて眠れない夜もあった。
 そんな時も自分のもふもふな毛並みを毛づくろいしながら慰めていたが、やはりもふもふを自分の手で愛でたいと望んでしまう。

「キューーン……。クゥーーーー……」

 ああ……。ミケが恋しいな。猫なのに、人懐っこい子で、いつでも膝に乗って撫でろと要求して来た。

 ミケは珍しい三毛猫の雄で、生まれた時から家に居た。でも、私が中学に上がった頃居なくなってしまったのだ。
 あの時私はあちこち探し回ろうとしたが、父と母はただ、ミケはもう年だったから、と言うだけで、後から猫は人の見えない場所で死ぬことを知って、どれだけ泣いたか。

 それ以降、猫か犬を飼おうと思ったこともあったが、部活や受験に忙しくなり、世話も満足に出来ないだろうと諦めたのだ。
 でも、ずっと心のどこかでいつでも手を伸ばせばもふもふな毛並みがあり、抱き着くだけで幸せな気分になれる、そんなもふもふの温もりを求めていた。

 だから転生する時に神様に要望を聞かれて無意識に出たのが、『もふもふを愛でたい』という言葉だったのだが。

 あの時私は神様の前では私はひれ伏すしか出来なかったが、神様が私のことを想ってくれた心を感じていた。
 神にとっては砂漠の中の一粒の砂に過ぎない存在な私に、安全なこの場所を用意してくれたあの神様なら、私の希望のもふもふにいついても違う形でも叶えられている気がしている。

 そう、ここは異世界なのだから契約を結んで一緒にいてくれるもふもふが、どこかにいるかもしれないよね。

 もう少し満足に動けるようになったら、この結界の中も探しに行こう。そう思いつつ、尻尾に顔を埋め、小さく丸まってまだ遠い朝を思いつつ眠りに着いた。

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