もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 畑に植えた種から芽が出た頃、森を今度は薬草図鑑を片手に薬草を探しながら歩いている。

 貯蔵庫には、傷薬などの薬も置かれていた。この世界の傷薬は、所謂ポーションのような薬はこの世界にはなく、塗り薬だ。

 治療魔法も無いみたいなんだよねぇ……。ただ、浄化の魔法があって良かったけど。

 浄化の魔法とは、全身を魔力で包み、水で全身を洗うイメージだ。そこに光で滅菌するイメージで魔法を使うと、傷口の殺菌にもなる。これは、この間人化して森を歩いていた時に転んで膝を擦りむいた時に使って気が付いたことだ。

 浄化の魔法が血が噴き出るような傷でどれだけ効果があるかはやってみなければ分からないけど。でも、そんな傷なんて負いたくないし、他人でもそんな傷を見て冷静でいられる自信は全くないのよね……。

 まあ、そんな状況は外へ出ないとないと思うが、家には調薬の本も、使う器具もしっかりと用意されていたので独学で調薬をやってみることにしたのだ。
 森の奥には貴重な薬草が生えていると本で知ったので、野菜畑の隣に新たに薬草畑を作ろうと思っている。

「あっ、あった。これを掘ったら今日は戻ろうかな。なんかかなり曇って来たし……」

 持っていた大き目の籠から小さなスコップと薬草を入れる袋を取り出すと、根を傷つけないように周囲からそっと掘り起こしにかかる。
 今日は朝から曇り空で、厚い灰色の雲に覆われていたがまだ一度も雨が降ったことが無かったので森へ来たのだが。

「あっ!雨……!?」

 薬草を土ごと袋へ入れた時、ポツンと頬に感じた水滴に驚いて空を見上げた。
 すると、確かにポツ、ポツ、と次々と頬に、手に、足に感じる水滴にただ茫然とする。

 ……とうとう雨が、降るようになったんだ。

 真っ黒の雲の具合を見ると、恐らく結界の外はもっと激しい雨になっているのだろう。それでも、とうとう結界の中でも降り出した雨に、転生してから過ごした時間を想う。

 神様。そろそろ準備期間は終わり、ということですか?私もこの世界の一員として生きている自覚を持て、と。

 恐らくこれからはだんだんと、大雨が降る日や台風のような大風の吹く日が来ることだろう。この結界の外と同じように。

 色々と準備をしながら覚悟を決めたつもりでいたが、こうして雨が降って来ると、自分が心の奥ではまだまだこの箱庭でまどろんでいたいと思っていたことに気づく。まだどこかに生きることへの拒絶が遺っているのだろう。

 それに、雨……。雨は嫌なことばかり思い出すから。

 冷たい雨が降る日。両親が旅行先で事故にあったと連絡が来た。驚いて雨の中傘もささずに駅まで走り、濡れたまま新幹線に飛び乗った。けれど結局両親の死に目にも会えず、濡れた身体のまま茫然としていた。

 ……もう、私は生まれ変わって今はルリィになったのに。雨を見ると、あの時のことが頭に過るのは同じなんだね。

 あの時とは違い、ほとんど身体が濡れることはなかったが、一人でいることがとても肌寒くなって、思わず精霊樹の元へと走り出していた。
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