もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 精霊樹に抱き着くと、いつもポカポカと温かい魔力が身体を満たしてくれる。

 だからその温もりを求めて気づくと精霊樹の元へと向かっていたのだ。
 走る頬に当たるポタポタと降る雨の雫がまるで涙のように流れて行く。

 別に悲しい訳ではない。確かに雨は両親の死を思い出させるけど、今、その悲しさに囚われている訳ではなかった。
 ただ、思い出されたあの冷たい雨が、ずっと感じていた寂しさをより引き立て、温もりを求めずにはいられなかった。

 精霊樹が見えて来ると籠を置き、いつものように木の根を登って幹へとそっと抱き着く。
 目を閉じて魔力を通すと、いつものようにポカポカと温かい魔力が流れ込んで来る。その温かさが凍えていた心に少しずつ染みこむようだった。

「……温かい、けど。でも……一人は、寂しいよ」

 ずっと言えなかった言葉。声に出してしまったら、寂しさを常に意識してしまいそうで。
 こののんびりとしたぬるま湯の中に浸かったような箱庭での暮らしは、穏やかで私の精神を癒してくれている。なのに。

「贅沢なのは、分かっているけど。でも。一緒に居てくれる相手が、欲しい」

 あの雨の日。両親が亡くなってしまってから、ずっと一人だった。
 前世で一人で心をすり減らしながらふと思い出していたのは、子供の頃にずっと共にあったミケの温もり。

「……もう、さ……びしく、ない……よ」
「えっ?」

 精霊樹の木の幹に顔を埋めて、零れそうになる涙を堪えていると。ほんの小さな微かな声が、聞こえて来た気がした。
 顔を上げて、キョロキョロと辺りを見回したが、先ほどよりも少しだけ強くなった雨がさあさあと降り注いでいるだけで誰の姿も見当たらない。
 気のせいか、とまた俯くと。

「わたし……いる、から……。ひとり、じゃ……ない、よ」

 また、微かな声が聞こえた。それも、自分が求めていた言葉が。

「だ、誰?どこにいるの?」

 精霊樹に抱き着いていた腕を放し、今度は木の周囲を周ってあちこち見回してみると。

「ここ、よ。うえ……よ」
「上?」

 また聞こえた声に従い、上を見上げてみると。

「あっ!……せ、精霊?貴方は精霊、なの?」
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