もふもふになっちゃった私ののんびり生活
見えたのは、精霊樹の木の幹から小さな上半身だけが出てこちらを見下ろしている姿で。その透けた身体からは、精霊樹の葉が微かに見えていた。
思い当たるのは、魔力に意思が宿って生まれるという精霊と妖精だが、精霊樹は魔力を生む樹。なら。
「わたし、は、このせいれいじゅの、精。あなたが、まいにち、はなしかけてくれた……から。あなたのこえ、に、こたえるために……うまれたの。でも、まだ、うまれた……ばかりだから、あまり……はなせ、ない、の」
「精霊樹の精……。貴方は、私の為に生まれて来てくれたの?私がいつも抱き着きながら温かいけど寂しい、って思っていたから?」
口には出さなくても、いつも寂しさから温もりを求めていた。だから毎日散歩がてらこの精霊樹の処に来ては、ずっとその寂しさをまぎらわせていたのだ。
それが、まさかこんな形になるなんて。
「そ……う。ずっと、ここに……いる、けど、だきついて……くれたの、は、あなた、だけ。だか……ら、あなた、に、こた……えたかった……から」
応えてくれたんだ。私の、寂しいという気持ちを受け止めてくれるだけでなく、応えてくれようと木の精を誕生させてくれた。
なんで……なんで、こんなに私に優しいの?神様も、精霊樹も。ただちっぽけな私が安らぎ、立ち上げる為だけに、なんでこんなに心をくれるのか。
零れ落ちた涙は、もう、さっきまでの悲しさからの涙ではなく、とても温かい涙だった。
「あり、がとう。ありがとう、うれしい。こうして話をしてくれて、とっても、とってもうれしいよ。本当に、ありがとう」
「よかった。……まだ、わたし、うま……れたばかり、で、こうして、でて……いられるじかん、みじかい、けど。いつも、わた……し、あなた、を、みてい……る、から」
生まれたばかりなのに、私が泣いていたから、無理して出て来てくれたんだ。ここには、私のことをこんなにも気に掛けてくれる人がいた。
もう、昔を思い出して泣いている場合じゃない。前を向かなきゃ!そう、笑って。笑って、この世界で生きて行こう。だから。
「ありがとう!私、毎日来るから、いっぱい話を聞いてね。そして、この世界のことを、私にたくさん教えて欲しいな」
涙を拭いて、そう、満面の笑みを浮かべて言った。
「わかった。まって……る」
そう言うと、精霊樹の精はすうっと透き通るように木の中へと消えた。
それでも、もう寂しいという気持ちはなかった。また、明日会えるのだから。
一度ぎゅっと精霊樹に抱き着くと、籠を手に取り「またね」と声を掛けて家へと走り出した。
もう一人じゃない。私と話してくれる相手がいる。そのことが言葉に言い表せないくらいにうれしくて。そのうれしさに突き動かされるままに飛び跳ねるように走った。
いつの間にか雨は上がっていたが、でもまだ厚い雲に覆われた空に。
「神様!私はもう雨なんて気にしません。もう大雨が降ってももう私は大丈夫ですっ!」
そう、叫んでみた。