もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 スゥーー。……フゥーーーー。

 目を閉じてただ呼吸を繰り返していると、森の音が鮮やかに聞こえて来る。
 呼吸と共に、自分の存在感をその音の中へと埋没させ、それと同時に一歩踏み出す。
 と。

 ピタッと最初に虫の音が止まった。そして警戒したように小動物の動く音が。
 二歩目を踏み出した時には気配が遠のいて行く音へと変わっていた。

『ううー……。む、難しい』
「呼吸は良くなりましたよ。動かなければ大分気配は殺せています。あとは……風を纏った移動の練習を別に始めましょう」
『はい!先生!』

 気配を殺して自然に溶け込むのはシルビィーの特色の筈なのに、ちっとも上手くできない。所詮私には、本来なら森深くで生まれた時にある筈の野生は全くなかった、ってことなのだ。

 ……まあ、転生してすぐに獣姿で彷徨っていた時からそれは分かっていたことだけどね。

『ふう。じゃあ、もう一度やってみるね!』
「はい」



 セフィーの指導の元、気配を殺して移動する術を学び、更に一年半が経った。
 私もあと少しで九歳になる。
 最近になってやっと、獣姿で気配を殺して風に乗ることができつつある。

 フッと小さく息を吐きだすと、そのまますうっと風に足を乗せて移動する。
 そのまま滑るように草原を駆けて一周し精霊樹の元へと戻ると、途端に息が苦しくなって大きく息を吐きだしてしまった。

『ハアッ……』
「大分良くなりましたよ。後は、呼吸をしながら走れれば次の段階へ行けます」
『フウ……フウ……。そ、それが難しいのよね』

 まあ、でも呼吸をすると気配が漏れちゃうし、息を気にしていると、今度は風に乗り切れないし。なんで同時にできないのかな……。

 足に纏う風には推進を、体に纏う風には停滞を、となるとどうしても上手くいかないのだ。

『呼吸をすると、風を乱して匂いが漏れるような気がするんだよね……。ねえ、セフィー。私もこの結界を使えるようになるかな?』
「ルリィには異世界の知識がありますし、イメージできるかもしれませんね。やってみますか?」
『うん、やりたい!よろしくお願いします!!』

 もし、悪意を跳ね返すこの結界を張れたら、魔物に見つかっても安全に身を守ることができるよね。
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