もふもふになっちゃった私ののんびり生活
セフィーの言葉に動揺して、纏っていた風の結界が緩む。
あっ、いけないっ!匂いが漏れちゃってるっ!!
慌てて風の結界を纏いなおしたが、その時に気配も漏れたようで、気づくと左前方から殺気が近づいて来ていた。
ああっ!き、気づかれたっ!ダメよ。これ以上動揺したら。落ち着いて、結界を張って!!
敢えて一度深呼吸をして目を閉じると、集中して光学迷彩をイメージしながら悪意を跳ね返す結界を張り、そのまま息を潜めて気配を殺した。
『キチンと結界は張れていますよ。そのままじっとしていて下さい。魔物の姿を見ても、今度は気を緩めたらダメですよ』
頭に響いたセフィーの言葉に頷き、心を静めながらそのまま動かずに結界の維持と気配を殺すことに集中する。
すると、こちらへ向かっていた殺気が一度止まり、それから探すようにゆっくりと移動して来た。
近づいて来る方向を見ていると、現れたのは、体長三メートルを越える狼のような姿の魔物だった。
こげ茶の毛皮は硬質で、口からは長い鋭い牙が覗き、頭上には鋭い角が突き出ていた。そして魔物の特徴である赤い目が不気味に光っていた。
……テレビで見たことのある狼とはやっぱり違う。足も太いし、爪も長いから飛び掛かられただけで大怪我だね。
どう見ても地球には絶対に存在しない獣だった。そんな魔物の姿を見て、さっきまでの動揺は冷め、冷静になって行くのを感じる。
やっぱりここは異世界、なんだ。魔物が居て、常に命の危険があって。分かっていた筈なのに、今でもどこかで現実感が無かったんだな、私。
その魔物はしばらく周囲の匂いを嗅いでいたが、私の痕跡を見つけられ無かったのか引き返して行った。
フウ。ちゃんと私の姿は見えていなかったみたい。成功して良かった!でも……今日はもう疲れたから、もう少し様子を見たら戻ろう。
セフィーの声が掛かるまでじっとして過ごし、結界を解いて引き返した帰り道では魔物に遭遇することなく無事に結界の中へと戻ったのだった。
こうして修行の成果を確認する初めての結界の外への外出は終わった。
ただその時私は、一瞬だけ漏れた私の匂いを嗅ぎ取った者が居ることなど想像もしていなかったのだった。