もふもふになっちゃった私ののんびり生活

 森の端から約一時間歩いて見えた街の外壁は高さが十メートルはありそうで、門も落とし格子になっていて堅牢だった。

 その門の前には街へ入る審査の列ができていて、森から戻って来た人達は何かのカードを出してそのまま入っていたが、荷車や馬車などは商品の検品があるのか時間が掛かっているようだ。

 私は旅人の列に並び、周りの人にまた話し掛けられながら待っていると、とうとう私の番になった。

「次……って子供、か?なあ、おじょうちゃん。一人で来たのか?」
「はい!お母さんは赤ちゃん産んだばかりだし、お父さんは森で仕事だから一人で買い出しに来ました」

 この街に近い村は森とは逆方向にある為、森から歩いて来て村から来たとは言えないし、旅人にしては子供すぎるので、セフィーと一緒に考えた設定だ。

「目的は買い出し、か。でも、こんなに小さな子供が一人で……長命種なのか?」
「私は十一歳です!買い出しくらい一人でできます!」
「お、おう、十一歳か。……じゃあ、まだ身分証は持っていないな。街に入るにはお金が小銅貨二枚かかるんだが」

 なんで皆私が十一歳だと言うと、目を見開いて私のことを上から下まで見るのかな?確かにまだ百二十センチくらいしか身長ないけど……ち、小さいのは、小さい種族だからっ!……多分。

 心の中で涙を流しながら、それでも笑顔でカバンから小銅貨二枚を取り出すと門番さんにはい!と渡した。もう笑顔は大盤振る舞いだ。

「よ、よし。身分証明書が無いと、子供でも審査が必要になるんだ。この板に手を置いて、魔力を少しでいいから流してくれ」

 お金を受け取った門番さんは、机に誘導して黒っぽい鉄のような板を指示した。

 これって、ファンタジーものの定番の水晶みたいな物なのかな?犯罪者かどうかわかるっていう。

 よいしょ、と子供の私にはちょっと高い机の上に手を伸ばして板に手を置くと、言われた通りに少しだけ魔力を流した。
 光るのかな?とドキドキしながら見ていると、何も反応は無かった。
 思わず小首を傾げながら門番さんを見上げると。

「うっ。か、かわいい。……ゴホンッ。反応がないから通って良いぞ」
「これに反応したらどうなるんですか?」
「これに反応するのは悪いことをした人だけだ。だからおじょうちゃんは気にしないでいい。ほら、行っていいぞ」

 ふんふん、やっぱり犯罪者を取り締まる魔道具なのか。どんな仕組みになっているんだろう?反応は、やっぱり光るのかな?

 うーん、とうなっていたら、ポンと頭に手を置かれ、そのままそっと撫でられた。

「ほら、早く買い物しないと、家に着くのが暗くなってしまうぞ?」
「あっ!ありがとうございました!行ってきます!」

 頭を撫でられたのは前世の子供の頃以来だ。なんだか温かくてくすぐったくて、恥ずかしくなって顔が赤くなってしまった。

 それを誤魔化すように、エヘヘと笑いつつ門番さんに手を振って街の中へと走り出した。

「あ、あれは……かわいすぎるだろう?危ないな、確かに」

 そう、門番さんが呟いていた声は当然ながら聞こえなかったのだった。
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