もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ねえ、おじさん!このお肉は何のお肉?」
「これはウロクの肉だよ!うちの店は特製のたれだから美味しいぞ。どうだい、おじょうちゃんも一本買っていかないか?」
ウロクは森の入り口付近で見かけた、おじさん達が狩っていた魔物だ。魔物は食べられる魔物が多く、普通に食材として流通しているのだ。
うっ。つい久しぶりのお肉の匂いにつられちゃったけど、魔物の肉、か……。
それにさっき見た血の赤を思い出すと、ためらいの方が先に出る。
でも、豚や牛や鶏だって、殺して食肉として流通していたのだ。肉や魚を食べて生き物を殺すのはかわいそう、というのは偽善でしかない。
何年もほぼ果物だけの生活だったし、今も干し肉は出汁をとるのに使っているだけだから、お肉を食べなくても別に生きるのには困らない。けれど。
「……一本、下さい!」
「おう!ほら、熱いから気をつけてな!」
薬草を売ったお金を渡し、串焼きを受け取る。
いくら神様が用意してくれたとはいえ、干し肉を使っている時点で肉を食べないでこれからずっと過ごすことは無理だろう。日本では当たり前のように肉を食べていたのだから。
だから。生き物を殺せない、なんて甘いことはもう言えない、と自覚しながらも。買った串焼きを目を瞑って口に運んだ。
「……美味しい。美味しいな」
甘辛いたれがよくからんだ串焼きは、肉の味を引き立てていてとても美味しかった。
一口食べたら止まらなくなり、気づくと大き目だった串焼きの肉を全てたいらげていた。
……この世界に魔獣として生きるなら、私も自分の手で魔物を倒せるようにならなきゃね。戦闘は、なんて肉を食べちゃったら言えないよね。
久しぶりに食べた肉の味を噛みしめながら、屋台で目についた卵を買うと門へと向かった。
街の人に声を掛けられながら歩いていると、近づいて来た門に人だかりができているのに気づく。
「あーーっ!!ちょっと目を放した隙に街の中へ匂いが続いているってどういうことだよ!くそっ。匂いがいっぱいでさすがに辿れねぇ」
そして大声で叫ぶ、男性の声が聞こえてきた。
何かあったのかな?あんまり近寄りたくないけど、もう戻らないと暗くなっちゃうし。
もう時間的には歩いて森へ入る頃には陽がかげりだす頃合いで、これ以上遅くなると危険を冒してでも森へ入る前に獣姿に変化しないと間に合わなくなる。夜の森は夜行性の魔物がいて危険なのだ。
着替えられそうな場所なんて見当たらなかったし。仕方ない。大回りして門を抜けよう。
大通りを人波と一緒に渡り、そのまま人だかりを迂回して門へもうすぐ、という時。
「あっ、この匂いは……見つけたっ!!」
同じ男性の叫び声が思ったよりも近くで聞こえてビクッとなる。
早く街から出てしまおう。もう、なんなんだろう。やっぱり街は怖いかも。
ビクビクしながら小走りで街から出る列へと真っすぐに向かうと、後ろから人をかき分けながら走って来る音がした。
振り返るのは怖いので、後ろから迫る足音から横へずれようとすると。
「待ってくれ!やっと見つけたんだっ!」
そんな声と共に人をかき分けて走って来た男性に、ガシっと手を掴まれたのだった。