もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 ヴィクトル、と名乗ったその人は、極上のもふもふだった。

 金を帯びた赤い毛並みはふんわりとなびき、背には金の鬣が。耳は丸くて小さいが尻尾は極太で先端が金の毛がふっさふさで。金の瞳は、いかにも猛獣という鋭さを宿していた。

 こ、これはっ!毛は長めだけど、ほぼ猫科!!大きさは虎とかライオンの何倍もあるし、手足は太くて鋭い爪が見えているけど!でも金色の胸毛がもっふもふだ!!

 いかにも肉食獣の特徴に気づきつつも、その豪奢なもふもふの毛並みについふらふらと近づいていってしまう。

 あの胸毛はダイブしたら気持ちいいヤツ!!ああ、お腹の上でごろんと寝そべったら絶対天国だ……。

 ふらふらと近づく私の姿に、ヴィクトルさんは腹ばいに座り込んだ。
 その顔だけで私の全身の何倍も大きいが、それでも私には、もうもふもふした毛並みしか目に入っていなくて。

 その時。

 バキンッ!

 という音とともにすぐ傍の木の枝が折れ、私のすぐ目の前にブスッと突き刺さった。
 思わずピョンっと飛び跳ねて後ろに飛び退る。

 セッ、セフィー!ごめん、ごめんなさいって!確かに今、私はもふもふにつられていたけどっ!

 それは昨夜、セフィーにきつく言われていたことで。
「いいですか。いくらもふもふだからと言って、抱き着いたり、ついていってはいけませんよ?ふらふら近寄ってもいけません!」
 それに私は。
「いくらもふもふでも獣人だから、抱き着いたりしたら痴女になるから!そりゃあ、もふもふな毛並みには惑わさるだろうけど、絶対ついていったりはしないから!」

 と言い返したのだ。結局セフィーに、絶対ついていかない、惑わされない!って誓わされたのだが。

 はいっ!ちゃんと思い出しました!!さあ、結界は目の前だ、セフィーの元へ帰ろう!

『わ、私はルリィ、です。まだ十一歳なので、番とか分かりません。ごめんなさい。もう帰らないといけないので、失礼します!』

 よし、言った。名乗られたから名前くらいはね。

 そのまま意気込んでくるっと回って結界の方へ歩き出すと。
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