もふもふになっちゃった私ののんびり生活
 結局なんとか歩けるようになるのに、体感時間的に一時間近くかかった。

 最後にはもう耐えられないくらいの空腹感にヤケになって走ろうとしたら、それまで三歩が限界だったのにヨタヨタだけど歩けていたのだ。

 何だそりゃ、とは思ったけど、それよりもこの空腹の方がまずいと、やっと機能した本能に身を任せて地面の匂いをくんくんと嗅ぎながら食べ物を探す。

 ……子犬って何を食べられるの?母乳はないし、肉、は無理。というかこんな状態で狩りなんて出来る訳ないし。
 いや、もし成長して犬じゃなくて実は狼だった!なんてありがちな設定だったとしても、私が狩りをするなんて想像もできないんだけど……。

 狩りをする、ということは、この牙と爪で生き物を殺す、ということだ。肉食の獣だったとしたら、そうしないと早々にまた死ぬことになる。
 そんなこと、日本人の感覚が抜けきれないままできるなんて到底思えないし、自分が、と考えたら無理だとしか言いようがない。

 もう過労死する程頑張ったんだから、今世ではただ食べる為だけに無理なんてしたくないんだけど……。そうなったら、いっそ……。

 先のことを思うと、今の時点では光明が見いだせないが、でも実際のところはまだ何も分かってはいない。だからとりあえずはこの空腹だ、とくんくんと地面の匂いを嗅ぐ。

 あっ!この甘い匂いは、何かの果物?……熟している果実とか落ちてないかな。匂いを嗅いで美味しそうと感じたんだから食べられるよね?

 必死に嗅ぎとった匂いを辿り、なんとか少し離れた果実の実る木の下へと辿り着いた。そうして熟して落ちている木の実を見つけると、何も考えずに齧りついていた。

 うう、美味しい……。美味しいよ……。はあ、熟しているからとても甘いし、果汁もたっぷりだから喉の渇きも収まったし。

 ガツガツと小さな牙を突き立て、果汁を飛び散らしながらかぶりついて食べると、一個を食べ終えた処で満腹になった。

 まだ赤ちゃんだからかお腹がポッコリだ。それに……。これからどうしたらいいのか考えたいのに、もう眠気が……。

 ふわーあ。抑えきれない欠伸に促されるようにその場にくるりと丸まると、眠気に促されるままに眠りに落ちていった。


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