もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「森の奥に入れるなら、ドーマ草があれば欲しいね。わかるかい?」
「えっと、すいません、名前は知っていますけど、どんな薬草なのか知らなくて」
本には図がほぼないので、特徴を書いてある文章を読んで見分けるしかないのだ。ドーマ草は、まだ採ったことのない薬草だった。
「……これだよ。これは乾燥させた物だが、葉が途中から膨らんでいるだろう?生えている時は葉の裏が赤いから、見つければ分かる筈だよ」
「ありがとうございます!探してみます。見つかったら次、持ってきますね」
見せて貰ったドーマ草は森で見た記憶がなかったが、セフィーに聞いて探してみよう。
「ああ。根元から葉を三つ残して採取すれば、また生えて来るからね。葉が上に五つない物は大きくなってから持っておいで」
「はい!わかりました!」
「……ところで、でかい図体でそれで隠れているつもりなのかい?ヴィクトル、出ておいで。なんだい、今日は何か持って来たんじゃないのかい?」
そういえば、私の後ろをついて歩いていたヴィクトルさんは、店の中へ入って来ていなかった。どうやらおばあさんと顔見知りだったらしい。
「今日は彼女の付き添いだ」
「……ふーん?お前さんみたいなでかい図体で、小さな子に悪さするんじゃないよっ!!そんなことしたら、ここいらに立ち寄れなくしてやるからねっ!」
「なっ!ルリィは俺がずっと探していた番なんだ。悪さなんてする訳ないだろう」
悪さ、の意味を色々想像してしまって、ぞぞぞっと背筋に悪寒が走り、そのままおばあさんのいるカウンターにペタリと張り付いてしまった。
「おお、よしよし、お前さんもこんなに小さいのに、あんな気遣いもできないヤツに番だと言われちまったのかい。それは災難だねぇ」
そう言って頭を撫ででくれたおばあさんに、うんうんと大きく頷いたのだった。
その後はおばあさんが大きな袋を担ぐヴィクトルさんに、「こんな小さな子を討伐ギルドへ一緒に連れて行く気かい?お嬢ちゃんはあたしが見ているからさっさと行っておいで!!」と言って追い出した。
その間にこの間の帰りから今日までのことを聞いて貰い、「それは難儀だったねぇ」と言ってもらった。
おばあさんはノンヌさんと言うそうだが、ヌの発音が上手くできなくて結局おばあさん、と呼んでいる。
ただヴィクトルさんのことはずっと昔から知っているそうで、ヴィクトルさんが番を探していたことも知っていた。
でもおばあさんは、何か無体なことをするようなら、この店に駆け込んで来れば追い払って二度と寄せ付けないようにしてくれる、と言ってくれた。
それがとても嬉しかったけど、ヴィクトルさんが実際に何十年もの間番を探していたことを知っている人に会って、複雑な気持ちにもなった。
そこで思わずおばあさんに、「通いであまり来れないけど弟子にして下さい!」と思い切って言ってみたら、もう少し大きくなったら弟子にしてくれる、と言って貰えた。
今は日帰りで帰るから時間がないし、まだ街に泊まり掛けはヴィクトルさんのこともあるし止めた方がいいだろう、ってことだったけど、大喜びで飛び上がったよ。
討伐ギルドで魔物の素材を売って戻って来たヴィクトルさんに不審がられるくらいにおばあさんと仲良くなっていた。