もふもふになっちゃった私ののんびり生活
旅に出てからも、色々あった。
人の姿で戦う術を覚え、討伐ギルドで登録してどんどん階級が上がり、事実上一番上の階級の神銀級になった頃にはこの大陸のほぼ全ての場所を見て回っていた。
十年が三十年になり、六十年、八十年と過ぎる内に、どんどん感情が枯れて行く。
少しの希望の元、一族の元へも十年に一度くらいは戻ったたが番は見つからず、もう見つからないかもしれない、と思い始めた頃にこの国で叔父と再会した。
叔父は人の女性の番を見つけ、幸せな家庭を築いていた。
寿命の長いヴァンサーだが、大分年老いて来た叔父は、番の妻と一緒に逝けるだろうと嬉しそうに小さな子供を抱いて笑っていた。
その姿を見て、その頃にはほとんど笑うことも忘れていたが、どうしても番を諦めきれずにここ何年かはティーズブロウを拠点にしながらもあちこち旅して番を探し続けていたのだ。
だからいつものように結界の周りを周って見つけれない番の匂いに肩を落として戻る途中で、森から出るという場所で嗅いだ番の匂いに我を忘れて匂いを追って駆けだしていたのだ。
そこからは夢中だった。番の甘い匂いを追うように走って辿り着いたのは朝出て来たティーズブロウの街。
さすがに街中では匂いが混じって嗅ぎ分けることはできずに、思わず叫んでいた。
もしかしたら、今日以外に番を見つける機会はないかもしれない。
その想いに急き立てられるように、門の前で騒いでいた時、ふいに鼻を過った甘い匂い。
その匂いに気づけば夢中で手を伸ばしていた。
まあ、それが番に不審を抱かせた訳だが。
ルリィ、と名前を教えてくれた声の甘さに酔いそうになったのは、百年以上も求めていた番相手なのだから仕方なかったと思う。
ルリィと出会ってから、淡々とした白黒だった世界に色がつき、その一挙手一投足に気持ちが上下し、心からうれしい、楽しい、悲しい、そういう忘れていた感情が溢れて来て。
そっけなくされても、傍で言葉を交わしてくれるだけで天にも昇りそうな心地になる。
本当は、今は幼い彼女を遠くで見守り、俺を受け入れて貰えないのなら諦めた方がいいのかもしれない。でも、どうやってもできそうにない。
あの蒼い瞳に自分が映った時、もうどうしようもなく魅せられていたのだから。
まだ幼い、幼獣だった番。
俺が求め続けた期間が年の差以上だったルリィ。でも、まだ幼い彼女へ手を伸ばすことをどう思われたとしても。どうしても求め続けられずにはいられないんだ。
だから今は、すぐ近くに君の姿を見られるだけでいい。それでもいつかーーそう、心の中で望むくらいはいいだろうか。