もふもふになっちゃった私ののんびり生活

 アイリちゃんと知り合ったのは、おばあさんの家に泊まらせて貰うようになってすぐの頃だった。アイリちゃんが店に来た時、扉の外で立っていたヴィクトルさんに驚いたって言われて事情を話したのだ。

「えーー、番っ!まだ子供なのに、番に見いだされたのっ!ふうん。確かにあの人はちょっと怖いけど顔は美形だし、番として求められるのも素敵だと思っていたけど、まだあなたは私と同じくらいよね。なら今からたくさん出会いだってあるし、番が見つかって良かったかどうかは分からないかなー」

 そう言ってくれたアイリちゃんとすぐに打ち解けて、同じ年だと分かって友達になったのだ。

 ヴィクトルさんは、あんまり気にしていなかったけど、確かにイケメンなんだよね……。

 約ニメートル近い身長でがっちりしている所謂細マッチョ体型で。それに金を帯びた赤い髪に、彫りの深い顔立ちに鋭すぎるが切れ長の金の瞳というイケメンの部類だ。

 店の外にずっと立っていた時は、街のお姉さん方が遠巻きにしていたし、ホステス系の美人が突撃して強引に誘って騒ぎになって、おばあさんが怒り狂って怒鳴り散らしたことがあって店内に居ることになったのだ。

 今はヴィクトルさん目当ての客は追っ払い、薬屋の客の時だけ声を掛けて貰っているから大分気にならなくなって来た。

 しかし確かに顔はいいけど強面だし目つきが鋭すぎてどっちかっていうとヤクザ系なのに、良く声を掛ける気になるよねぇ。まあ、確かにイケメンだな、とは思うけど、だからと言ってそれで惚れるとかは私はないな。

 元々喪女の私だ。イケメンなんて、近寄る方が嫌だったりする。女性の嫉妬が一番面倒だから。



 アイリちゃんと並んで歩き出した街は、普段よりも人で賑わっていた。
 一年前はまだ街へ来たばかりだったから収穫祭のことも知らなかったので、今回がこの世界での初めてのお祭りとなる。

 最初に街に来た時、すっごい人だったから街は人が多いんだね、って思ったけど、あれは収穫祭の人出だったんだよね。

 収穫祭の前後になると近隣の村からも人が来るので、普段でもいつもよりも人が多くなるのだ。

「ルリィ。ぼうっと歩いていたら危ないぞ。今は人が多いから気をつけて」
「あ……ありがとう、ヴィクトルさん。気を付けます」

 思い出しながら歩いていたら、アイリちゃんに少しだけ遅れて人とぶつかりそうになっていたのヴィクトルさんが前で腕で庇ってくれていた。

「ルリィちゃん、大丈夫?」
「あっ、アイリちゃん、ごめん。ちょっとぼうってしちゃってた」
「教会へは大通りだから、気をつけてね」

 教会へは初めて行った時、祀っているのが神様ではなくて精霊で驚いたんだよね。

 神像がどうやっても作れなかったので、そのお詫びも兼ねてお参りに行こうと立ち寄ったら女神像どころか偶像は何も祀ってなくてビックリしてしまい、思わずその場でヴィクトルさんにまくし立ててしまった。
 そうして聞いたところ、基本的には神様も祀っているが、名称などは伝わっていなく、どちらかというと自然信仰に近い形態だった。

 要は自然の恵みに感謝する、という信仰だ。神はこの世界を造ってくれた創造主で、自然を司る自然を日々崇める、という感じらしい。


「あっ、見えて来たよ!早めに来たけど、やっぱり結構人がいるね」
「そうだね。でも、そんなに並んでないから良かったね」
「うん!ルリィちゃん、さあ、早く並ぼう!」

 差し伸べられた手に手を重ね、手をつないでお守りを買う列に走って行ったのだった。

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